【特集】世界選手権へかける(8)…女子67kg級・井上佳子(中京女大)【2007年9月2日】








 世界にその強さをとどろかせている日本の女子レスリングだが、最近、ただ1階級世界一が生まれていないのが67kg級だ。階級区分が変わった2002年からのみならず、最重量級の次の階級として考えると、金メダルは1993年70kg級の浦野弥生以来見離されている。今年、その階級に挑むのが、昨年の世界ジュニア・チャンピオンの井上佳子(中京女大=
左写真)だ。

 国内で世界3位の坂本襟(ワァークスジャパン)、2005年の世界ジュニア・チャンピオンの新海真美(中京女大)という同門の先輩選手を破っての代表権獲得。これまでにワールドカップと世界ジュニア選手権に出場したことがあり、国際舞台での経験は積んでいる。

 そのせいか、世界最高峰の闘いに臨むにあたっても、緊張感は感じられない。「これまでにワールドカップとかで国際試合を経験していますので、初出場の緊張はありません」ときっぱり。

■昨年、世界3位の選手と互角に闘った

 しかし、6ヶ国しか参加しないワールドカップや、同世代の選手のみが闘う世界ジュニア選手権と、今年の場合は50ヶ国近くからそれぞれの国の最強選手が出場してくる世界選手権とは違うはず。初めてそのマットに上がった時は、緊張で足が震えたり、何も覚えていないと振り返る選手も少なくない。

 井上はきっぱりと言い切る。「世界ジュニア選手権とは違うと思います。でも、緊張はしないと思います」。経験というより、持って生まれた度胸のよさと言うべきか。

 実際には、2005年5月に名古屋で行われたワールドカップの試合後、「緊張してしまって、納得できる試合ができなかった」と振り返っているのだが、その時に闘った世界3位のカティ・ダウニング(米国=
右写真の左)に対し、「世界3位って、こんなもんか」とも話している。

 実際に世界を経験して、恐れるものは何もないと感じ、自信を持ったことは確かだ。あれから1年ちょっとの間に、「自分が大きく成長していることを感じる。練習でも、以前はなかなかポイントを取れなかった選手に、かなり取れるようになっている。スピードもついてきた」という手ごたえもある。この階級に初めて日の丸をメーンポールに掲げる可能性は十分だ。

■「すぐにでも試合がしたい」と言い切る自信!

 課題がないわけではない。まず体重の少なさ。練習の終わったあとは65kgを切る時もあるという。やはり外国選手にパワーで勝負しては、勝ち目は低くなる。これまでの経験から、腕を取られてパワーで引きつけられると、動きが封じられてしまう。「腕取りなどを防ぎ、自分のタックルにつなげられるように」と課題を持って練習している。

 8月22日からの全日本合宿の時点で「もう80%の出来。今すぐにでも試合がしたい」と口にする。この気持ちこそが、勝つために必要な気持ち。全日本チームの栄和人監督(中京女大職=
左写真の左)は、井上の基本に忠実なレスリングを評価するとともに、井上のこの姿勢に期待している。

 栄監督は、試合に挑む選手に一番必要なものは、「いつでも闘う」という気持ちだと強調する。「『課題をこなすために、もう少し時間がほしい』『これをしっかりできるようにして、世界選手権を迎えたい』などと思うようでは、世界選手権までの期間を有効に使えない。今闘っても勝つ、という気持ちが大切なんです」と。この姿勢こそが、自信の表れでもある。今の井上は、初出場とは思えないほど強い自信を持って世界選手権の闘いを待っている。

 敵は、世界チャンピオンの景瑞雪(ジン・ルイシュ=中国)か、それとも2年連続2位のマルチン・ドゥグレイナー(カナダ)か。昨年の世界3位は坂本襟であり、坂本を破っての日本代表権を獲得した。もう1人の3位のマリア・ミューラー(ドイツ)には3月のワールドカップで2−0(1-0,1-0)で勝っており、すでにベスト3にランクされていると考えて間違いではあるまい。実力のすべてを出し切っての金メダル獲得が期待される。

(文=樋口郁夫)



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