【特集】世界選手権へかける(9)…男子フリースタイル66kg級・鈴木崇之(警視庁)【2007年9月3日】








 6月の明治乳業杯全日本選抜選手権でノーシードから勝ち上がり、小島豪臣(周南システム産業)とのプレーオフも制して世界選手権の初キップを手に入れた男子フリースタイル66kg級の鈴木崇之(警視庁=
左写真)。この階級はアテネ五輪代表で元世界選手権3位の池松和彦(K−POWERS)の活躍もあり、近年、メダルの期待がかかる階級のひとつになっている。北京五輪代表枠獲得へ、今回は鈴木が挑戦する。

■遠間からのタックルはピカイチ! 課題は組み手

 鈴木は2003年の全日本選手権で、3ヶ月前の世界選手権で銅メダルを獲得し、いち早くアテネ五輪の代表に内定した池松と決勝で闘っている。その試合は天皇皇后両陛下が観覧された天覧試合。“がい旋”試合となった池松は、当時同階級でずば抜けた力を持っており、池松のワンサイドゲームになるという見方が強かった。

 ところが、ふたを開けてみれば、“タックル”が得意な池松の懐にタックルで飛び込んで行くのは常に鈴木だった。最終的には敗れたものの、先制点を取るなど大健闘した。その遠間からの高速タックルは今でも鈴木の生命線。だが、ナショナルチームに入ってから、スタイル変更を慣行した。

 「課題は組み手なんです」という鈴木。「足さえ取れれば何とかなったんです」と、国内では遠間からのタックル1本のスタイルでもある程度は勝てた。しかし、海外ではそうはいかない。遠間からのタックルでは攻撃のバリエーションが「頭打ちになってしまう」。ナショナルチームの常連を見て、国内外で勝ち抜くには組み手の強化が不可欠だと悟った。

 和田貴広・日本協会専任コーチの元で組み手を中心に現在猛特訓中だが、完成度はまだまだ。「でも、日に日によくなっていますよ」という感触はある。離れてよし、組んでもよしとなれば、最低目標である8位入賞も夢ではない。

 もうひとつ、鈴木に足りないものは海外経験の少なさ。2003年の世界ジュニア選手権(トルコ=12位)以降、海外で試合をしていないことだ。経験の少なさがたたって、7月下旬、ナショナルチームとして初めての試合となった「ベログラゾフ国際大会」(ロシア)では、調整失敗によって選手生活初の計量失格という大失態を犯し、周囲の期待を裏切ってしまった。

 しかし、それが今ではいい薬。遠征の後半にあった「ダン・コロフ国際大会」(ブルガリア)は体重をきちんと落とし、5位という好結果を残した
(右写真)。「強いヤツらとやれてよかった」と、世界の力を肌で感じたことで。より一層組み手の重要さに気づいたという。

■アゼルバイジャンでの“兄妹”での活躍なるか

 今回の世界選手権に出場する選手は「3位以内になって五輪代表内定までもぎ取りたい」が本音だろう。それは初出場の鈴木も同じ。フリースタイル66kg級には今、楽しみな若手が多数いる。藤本浩平、米満達弘(ともに拓大)、佐藤吏(ALSOK綜合警備保障)、そして全日本選抜選手権では不運のけがで優勝を逃し、現在リハビリ中の小島豪臣(周南システム産業)。

 誰一人として北京をあきらめてはいない。先月の全日本学生選手権で初優勝を飾った米満は「今でも目標は北京とロンドンの両五輪の連覇です」とキッパリ言い切っている。

 五輪出場枠を獲って、その出場権を他の選手に取られることは一番悔しいこと。「日本代表という自覚を持って、世界選手権でオリンピックの代表権を手にしたい。国内選考はできればやりたくない」。鈴木の目標は初出場ながら高いところにある。

 世界選手権の開催地となるアゼルバイジャンは、昨年6月に高額の賞金大会「ゴールデン・グランプリ決勝大会」が開催された場所。日本も女子を中心に参戦し、67kg級で鈴木の妹・博恵(立命館大)が優勝し、60万円もの大金を手にした。その賞金でジャックラッセルという種類の犬を飼いだした。名前はアゼルバイジャンをもじって「アゼル」。

 妹が昨年優勝を遂げている地・で鈴木は世界選手権初デビューを飾る。これ以上のゲンかつぎはない。「いい結果を残して記念の犬をもう一匹飼いますか?」と問うと、「そうですね!」と笑顔で応えてくれた。その笑顔がアゼルバイジャンの地でもさく裂するか。

(文=増渕由気子)



《iモード=前ページへ戻る》

《前ページに戻る》