【特集】世界選手権へかける(10)…男子フリースタイル96kg級・小平清貴(警視庁)【2007年9月4日】








 「今までで一番いい仕上がりです」。世界選手権を半月後に控えた男子フリースタイル96kg級の小平清貴(警視庁=
左写真)は開口一番に言い放った。今回で4度目の世界挑戦だが、初出場の時は記憶がないくらい緊張してしまって実力を発揮できず。2度目、3度目はいずれもけがに悩まされ、大会前の海外遠征に参加することができなかった。

 今回は、6月中旬からのナショナルチームの合宿もフルに参加し、長野・菅平では名物トレの“馬追い”も経験。7月下旬からの海外遠征も帯同し、しっかり準備を整えられた。

■組み手争いをすることで外国選手をばてさせる

 ことしの12月で29歳になる小平は昨年、ナショナルチームの主将を務めた。国内では無敵の強さを誇り、少々のピンチでも「焦ることはない」という。それは6月の全日本選抜選手権の決勝戦、磯川孝生(山口県協会)に第1ピリオドを奪われて第2ピリオドもクリンチで優先権を取られるという大ピンチでも同じだった。

 「適応能力がついてきているんです」。次に何をすればいいのか、ピンチのときこそ今までの経験がものを言う。あとはその経験を世界で発揮するだけなのだ。

 昨年の作戦はビッグポイントを獲ることだった。今のルールで3点のビッグポイントを奪えば、ほぼそのピリオドを奪うことができる。外国人選手の懐にもぐりこんで、一発の投げ技で3点奪取――。初戦の第1ピリオドで作戦通りに投げ技はかかったものの
(右写真)、第2、3ピリオドで逆転負けを喫した。大技は何度もかからない。3ピリオドを通して点数を奪わなければ勝てない、という反省が残った。

 「投げ技の練習は続けています」と、昨年より投げ技の精度は上がっているようだが、大技一本という作戦は捨てた。今のルールは1点の重みが大きい。「ラストポイントは体力のある日本人に有利だし、場外ポイントも有効に使いたい」と1点を大切にする試合運びを心がけるようだ。

 また、昨年は外国人選手のパワーを恐れて必要以上に組むことを避け、ここ一番での勝負どころで相手との距離を縮めて技をかけた。しかし、「積極的に組み手争いをすることで、海外の選手はすぐにバテることが分かりました」。外国人選手のパワー対策も、「ひとつ差されたらすぐ切る、手を取られたら切る…。つまり展開を早くするんです」と、動きを止めなければパワー勝負を避けられることが欧州遠征でハッキリした。

■あと1勝の壁が破れなかったアテネ五輪予選の悔しさを胸に最後の挑戦

 現役は北京五輪までと決めている。自動的に世界選手権は今年が最後の挑戦となる。国内では申し分ない成績を収めているが、海外では2001年の東アジア大会2位が目立つ程度。高校からレスリングを始めて競技1本の人生を送ってきただけに、集大成として五輪に出場、そして上位入賞の結果を残したい。

 柔道をやっていた小平がレスリングを始めたのは、霞ヶ浦高校の大沢監督にスカウトされたのがきっかけ。「普通の高校生をするつもりだった」と、当初は柔道を続ける気もレスリングを始める気もなかったという。しかし、大沢監督と山梨学院大の高田裕司監督の話を聞いているうちに、「やってみよう」という気持ちになった。

「結果的にいい経験になりましたし、濃いことをしてきたと思います。大学にも行けましたし、(レスリングをやって)よかったです」と、レスリング1本の人生を選んだこと、そしてここまで導いてくれた方々へ感謝している。そのためにも苦戦が続く重量級で五輪の出場枠を獲得し、「周囲の方にお礼を言いたい」と結果を出すことを誓った。

 あと1勝でアテネ五輪を逃した過去もある。同じ轍(てつ)は踏まない。「目標は代表権を獲ってくるだけです。ほかに何も言いません」。悲願の重量級の代表枠確保へ。日本レスリング界の歴史を変えることができるか。

(文=増渕由気子)



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