【特集】世界選手権へかける(11)…女子59kg級・正田絢子(ジャパンビバレッジ)【2007年9月5日】








 3年連続で世界選手権へ出場し、3年連続(通算4度目)世界一を目指す。女子59kg級の正田絢子(ジャパンビバレッジ=
左写真)は、海外の選手からの挑戦を受ける立場だ。しかし、本人の気持ちの中には、挑戦を受けるという気持ちは少ない。今年1月と4月に63kg級で世界選手権の代表を目指しながら、それに敗れているため、本来の59kg級での出場となっても“デフェンディング・チャンピオン”という気持ちにはなれないらしい。

 チャンピオンに輝いた選手は、守りに入らないため、よく「チャレンジャーのつもりで闘う」と口にする。正田の場合は、それよりもさらに強い気持ちで「チャレンジャーとして闘う」という状況だ。その気持ちが力強い闘争心となれば、今年もメーンポールに日の丸を揚がる可能性は十分にある。

■昨年のような“雨のち晴れ”は、もうやらない

 昨年の大会は、初戦のアルカ・トマール(インド)戦で大苦戦。第1ピリオドのラスト数秒にがぶり返しを受けてしまって逆転され、出だしをつまずくというスタートだった
(右写真)。それがデフェンディング・チャンピオンとしての“守る気持ち”のせいだったかどうかは定かではないが、この苦戦によって目が覚め、この試合を逆転で勝つと、その後の試合は失点を許さずに圧勝した。

 「もう、あんな試合はしたくないですね。周囲がもっと安心して見ていられる試合をして勝ちたいです」。結果だけではなく、内容もより完ぺきなものにして目指す4度目の世界一。そのために練習で注意していることは「下がらずに、前へ前へと出ること」。その気持ちは「勝ちにいく」という気持ちにつながり、仕上がりは最高にいいという。

 確かに昨年の初戦は危ない試合だった。そこで気合を入れ直したものの、前年に世界チャンピオンになったことで得意技の飛行機投げは十分に研究されていた。ならばタックルを敢行。相手の足を奪って「絶対に離さない」と気持ちが随所に見られ、その後の試合を快勝することができた。

 8歳からレスリングを始め、キッズレスリングの強豪・吹田市民教室(大阪)と女子レスリングの強豪・網野高校(京都)を経て16歳で日本一に輝き、東洋大、ジャパンビバレッジで強さを磨いてきた正田のレスリングの幅は広い。単に気持ちを入れ直したから快勝続きだったのではなく、それだけのレスリングの幅があるから、相手がついてこれなかったのである。

■応援してくれる人のためにも、世界V4を目指す!

 そんな正田が海外で負けることは想像しにくい。それもそのはず。2001年に9月に右肩にメスを入れ、復帰して以来、国際大会で負け知らず。積み重ねた対外国選手の白星は、無傷の「29勝」になる。

 しかし正田は「勝負の世界には、どんな落とし穴があるか分かりません」と細心の注意を怠らない。昨年の世界選手権の出だしで思わぬ苦戦をしているだけに、「何があるか分からない」という気持ちを忘れる可能性は低いだろう。

 今春は63kg級で敗れ、北京五輪への道が厳しくなったことでレスリングシューズを脱ごうと思った。それを思いとどまらせ、59kg級のマットに戻ったのは、「代わりに出た選手が世界一になったら、きっと悔しくてたまらなくなると思う」という思いであり、「応援してくれる人たちへの恩返しができていない」という思いからだった。

 世界では負けていない。国内でも、59kg級の最強選手は正田だ。まだマットを降りるわけにはいかない。それが闘う選手の本能。闘える限り、世界一を目指していく。正田の世界一への思いは、一昨年、昨年とまったく変わってはいない。

(文=樋口郁夫)



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