【特集】世界選手権へかける(14)…男子グレコローマン74kg級・鶴巻宰(自衛隊)【2007年9月8日】







 北京オリンピックの出場権がかかる今年の世界選手権で、“世界選手権のデビュー”を果たす男子選手は、フリースタイル66kg級の鈴木崇之(警視庁)、同74kg級の萱森浩輝(新潟・新潟県央高校教)、同84kg級の鈴木豊(自衛隊)、グレコローマン74kg級の鶴巻宰(自衛隊)、同120kg級の新庄寛和(自衛隊)の5選手。この中で、過去の国際大会で結果を残しているのが鶴巻
(左写真)。当然、期待度は最も高くなる。

 国士大2年の2004年天皇杯全日本選手権を制し、弱冠20歳で全日本の頂点に立った逸材。翌05年のアジア選手権とユニバーシアードでともに3位、06年の「ニコラ・ペトロフ国際大会」(ブルガリア)3位と国際大会でも入賞経験がある。世界選手権はことしが初出場となるが、いきなりの好結果が望めそうとコーチ陣もイチオシだ。

■今夏の欧州遠征で試運転は成功

 昨年夏は全日本学生選手権を欠場して、ナショナルチームの欧州遠征に参加した。それだけに日本代表という自覚はすでに備わっている。「初代表という緊張はありません」と貫録十分で、満を持して世界選手権に挑む。

 今年は8月の海外遠征で十分に本番のシュミレーションができた
(右写真:ニコラペトロフ国際大会で闘う鶴巻=赤)。五輪枠出場条件のベスト8という壁に、「練習の力が発揮できれば、絶対勝てない相手ではありませんでした」と強気な姿勢を見せる。もともと柔らかいレスリングでセンスも抜群。そのため、日本では“楽に勝ててしまう”部分もあったが海外では通用しない。

 「中途半端に守ったら返されます」と、外人対策にパワーをつけることが必須だと悟り、この夏は瞬発力強化を意識し、一階級が上の松本慎吾(一宮運輸)と積極的に練習するようにしている。日本レスリング界の柱である松本と比べると「スタンドになると差が出てしまう」とレベルの差を痛感するが、鶴巻にとってそれがいい練習につながっているようだ。

 遠征では、海外の選手が勝つためには手段を選ばないことも再確認。「ブルガリアでは頭突きとか目つぶしとかいろいろ見てきました。汚い手を使っても最終的にポイントを取った方が勝ちですから」と、審判の目を盗んで反則まがいの行為をする選手を見て世界の厳しさも知った。手足が長さを生かしてきれいに勝負を運ぶことが多い鶴巻だが、「そろそろずうずうしくなろうかな」と、海外では反則まがいの行為に屈せず、強気で攻めることをにおわせた。

■「初戦で世界チャンピオンとやってもいい」

 鶴巻が挑戦する74kg級は、選手層が厚い階級だ。その世界の壁に、一昨年代表の岩崎祐樹(銀水荘)は初戦敗退、昨年代表の菅太一(警視庁)も2回戦敗退に終わっている。

 ベスト8という最低目標は、組み合わせなどによってハードルの高さが変わってくる。ナショナルチームのコーチ陣も五輪枠死守について「組み合わせという運も少しある」と言う。一昨年、フリースタイル60kg級で世界デビューを飾った湯元健一(日体大助手)は、初戦で対戦した相手が結果的に優勝。不運な組み合わせといわざるを得ない状況だった。

 そんな中、鶴巻は「初戦から世界チャンピオンでもいい」とキッパリ。「初戦で倒せばその勢いで優勝できると思うし、本当に強い選手と対戦したい」と五輪出場枠確保はもちろん、世界王者へ一番効率のいい方法を考えている。他の代表選手が「3位以内」という目標を掲げる中、「世界チャンピオンが目標じゃないとつまらないでしょ」と、常にてっぺんを目指している。初出場ながら、有力選手と対戦し、結果まで残してやろうという鶴巻の姿勢はどこまでもどん欲だ。

 現在のグレコローマン・チームは松本を筆頭に、国内では無敵の強さ誇る選手が多く、「国内に目標がない」と言い切る選手もいる。鶴巻は大学2年で全日本の頂点になったが、その後はけがなどもあり、岩崎や菅にその座を譲った。今、グレコローマン74kg級は鶴巻、菅、岩崎が3強と言われている。

 それに関して鶴巻は「74kg級は鶴巻、と言われたいですね」と、世界大会の常連にになるため、国内で頭ひとつ抜け出したいようだ。ことしの世界選手権が“鶴巻時代”の起点とすることができるか。グレコローマン・チームのホープに注目だ。

(文=増渕由気子)



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