【特集】世界選手権へかける(16)…男子グレコローマン120kg級・新庄寛和(自衛隊)【2007年9月10日】








 もともと日本選手の体力(パワー)では厳しいと言われた階級だ。2005年5月のルール改正でグラウンドの攻防が取り入れられ、体格的にも厳しい闘いを余儀なくされて、いっそう厳しさが増した。だが、新庄寛和(自衛隊=
左写真)が男子グレコローマン120kg級の五輪出場資格を目指して世界選手権へ挑む。

 2年前のアジア選手権(中国)に出場した時は、中国とイラン選手に完敗した。今年5月のアジア選手権(キルギス)では、タジギスタンの選手に0−2(0-5,0-6)と敗れて、世界の壁の厚さは十分に体験している。7月初めの全日本社会人選手権団体戦で左ひざを負傷し、治ったと思ったら腰痛に悩まされて、約1ヶ月マットワークができなかった。

 それでも「オリンピックを目指して頑張る。勝って(日本では重量級が軽く見られていることに対して)見返してやりたい」と言い切った。

■勝負をかける技は、がぶり返し

 勝機を見出すのは、がぶり返しだ。新庄に限らず、日本の最重量級の選手がリフト技で外国選手の体を宙に舞わせるのは考えにくく、攻撃するとしたら、組み手をすばやく変えてのガッツレンチ(ローリング)か、正面へ回ってのがぶり返し。新庄は「がぶり返しで勝負をかけたい」と、グラウンドの攻撃の練習では大半をがぶり返しの練習に割いている
(右下写真)

 それを生かすためには、スタンドとグラウンドの防御でしっかりと守ることが前提となる。スタンドでは日本選手とはケタ違いの外国選手のパワーと真っ向から闘ってはならない。パワーをかわし、動かしてスタミナをロスさせるか。グラウンドでは、持ち上げられる前にいかにして防ぐか。

 日本代表をはずれていたこともあり、国際大会の経験は少ないが、今年5月にアジア選手権に出場したほか、6月にはドーハ・アジア大会3位の選手を含むキルギスのチームが来日して練習を積んだ。8月に来日したイラク・チームにもグレコローマン120kg級の選手がいた。ここでの経験を世界選手権に生かしたいところだ。

 世界のこの階級は、アテネ五輪と昨年の世界王者のハサン・バロエフ(ロシア)や、05年世界王者のミハイン・ロペス(キューバ)ら、ずば抜けた強豪がいる反面、技らしい技もなく、体の圧力だけがとりえで、すぐにスタミナが切れるような選手も少なくない。

 グレコローマンの重量級は30選手を超える出場選手が予想され、2勝を挙げれば、五輪出場資格の「8位」が見えてくる。くじ運に恵まれれば、1勝、あるいは2勝は不可能なことではあるまい。練習を積んだがぶり返しを確実に決めることで、何とかこのラインを目指したい。

■“毎日が全日本合宿”の自衛隊で力をつける

 中学時代までは野球の選手。一方で、プロレスが好きで、藤波辰彌のファン。いつしかプロレスラーになりたいと思うようになり、高校へ進んでレスリング部に入部した。「当時は、オリンピックはおろか、オリンピックの予選に出ることも考えていませんでした」。試合で勝つようになり、レスリングに打ち込むようになった。「大学3年生のころ、全日本選手権で勝つようになって、オリンピックを少し意識するようになりました」。

 プロレス入りの気持ちは消え、オリンピック出場の夢を追うために自衛隊に進んだ。1階級下の日本代表の加藤賢三との連日のスパーリングができる環境。「毎日が全日本チームの合宿みたいな感じです。大学時代より、絶対に力を伸ばしていると思います」と、進んだ道としては最高の環境だった。それだけに結果を出さなければならない。

 この階級は00年シドニー五輪と04年アテネ五輪で選手を送ることができず、最近の世界選手権でも結果が出ていない。しかし、1988年ソウル五輪では出口一也が6位に入賞し、96年アトランタ五輪では、鈴木賢一が8位に入賞。まったく結果が出ていないわけではない。

 今回の世界選手権で結果が出なくとも、来春の3度の予選で必ずチャンスの時がやってくるはず。そのチャンスを逃さないためにも、まず目の前の壁に全力投球してほしい。

(文=樋口郁夫)



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