【特集】重量級の復権を成し遂げ、五輪出場権獲得…男子グレコローマン96kg級・加藤賢三(自衛隊)【2007年9月18日】







 「国内で勝っても、世界へ連れていってもらえない。この野郎、という気持ちでした」。昨年の“ドーハ・アジア大会派遣なし”の悔しさを問われた時、おとなしい加藤が声を荒らげた。男子グレコローマン96kg級。はっきり書くなら「期待度の薄かった階級」だ。

 失礼な表現だが、そう言われても仕方のない成績だった。昨年の世界選手権では1勝をマークしたものの、今年5月のアジア選手権(キルギスタン)では初戦敗退。8月の「ニコラ・ペトロフ国際大会」(ブルガリア)では2試合連続でのフォール負け。そんな成績を続けた加藤が、男子グレコローマン2つ目の五輪出場権を加藤が手にするとは、だれが思っただろうか(右写真=4回戦に勝って5位以内を確定)

■徹底したウエートトレーニングでパワーアップ

 だが加藤は5位に入賞して五輪出場資格を獲得
。北京のマットに大きく前進した。組み合わせがよかったのは確かだ。だが、組み合わせのよさで勝てるのは1回、せいぜい2回だろう。3連勝する原動力には、本人の努力、そしてチャンスすらもらえなかったことに対する煮えたぎるような悔しさがあった。

 派遣させてもらえなかったのは、ドーハ・アジア大会だけではない。05年と06年の冬の遠征メンバーにも入れてもらえなかった。やっと欧州遠征のメンバーに加わった今夏は、前述の通り2試合連続のフォール負け。この成績では何も言えない。

 世界選手権へ向けての抱負を問われても、「がんばります」くらいしか答えなかった。だが、本人は勝つために工夫して練習し、あきらめることなく実力養成に励んできた。そのひとつが徹底したウエートトレーニングだ。その成果は「スタンドで押し負けることが少なくなった」ことで感じた。

 押し負けないということは、押す力も強くなったこと。それによって相手の反作用が強くなり、必殺の首投げがかかるようになる。初戦(2回戦)の中国戦で見事な首投げによるフォール勝ちで気分をよくし、4回戦のキューバ戦でも2度さく裂。2度目はしっかりとフォールにつなげ
(左写真)、この段階で五輪出場資格を手にすることができた。

■この出場権は絶対に他人に渡さない!

 準決勝のミンダウガス・エゼルスキス(リトアニア)戦は、あと11秒のグラウンドの防御が守れず、惜しくも黒星。あとわずかの差で決勝進出、すなわち五輪代表決定を逃し、3位決定戦も敗れてしまったが、5位という成績は「今の自分の実力。これからもっと練習して、もっと上へ行きたい」と、有頂天になることなく前進するには、ちょうどいい成績だったかもしれない。また「勝つためには気持ちが大事だということが分かった」と収穫の多い大会となった。

 重量級の復権を実現させたという気持ちもある。「重量級が軽く見られ、この階級の選手にも申し訳ないことをしていた。やればできることを、形で示すことができた」と話し、悔しかったここ数年間の気持ちをぶちまけた。

 まだ五輪代表に決まったわけではなく、12月の天皇杯全日本選手権で優勝できなければ、国内で他の選手に横取りされることもある。「他人には渡しません。全日本で勝って、代表権をこの手で取ります。自衛隊は最高の練習環境。ここで必死に練習します」。

 北京五輪に出場できてもできなくても、今回が最後の挑戦と決めている。「次はないので、今回、100%の力を出しました」という加藤。今回得た自信を武器に、五輪の日本代表を目指した新たな挑戦に全力で挑む
(右写真=5位入賞で多くの報道陣からインタビューを受ける加藤)

(文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)



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