【特集】12月に雌雄決する! 先輩・豊田雅俊に最後の挑戦…男子グレコローマン55kg級・平井進悟【2007年10月11日】







 グレコローマンスタイル55kg級のベテラン、平井進悟(ALSOK綜合警備保障)に神様はもう一度チャンスをくれた。

 6月の明治乳業杯全日本選抜選手権では、アテネ五輪代表の豊田雅俊(警視庁)に惜敗し、またしても壁を破れなかった
(右写真:豊田と闘う平井=青)。平井は、「引退」の二文字と格闘しながら9月の世界選手権(アゼルバイジャン)に出場する豊田の結果待ちの状態だった。

 6月の全日本選抜選手権の前は、最大のライバルである豊田に対して「選抜選手権が最後の対戦。これに勝った方が世界選手権でメダルを獲って五輪代表でしょう」と予想。同じ拓大卒の豊田を尊敬するとともに、自分の実力にも自信があった。しかし、豊田はまさかの2回戦敗退――。これは平井にとって“吉報”であったが、“ショック”な結果でもあった。「豊田先輩が五輪出場を決めてこれないなんて…」。

 6月以降、地に足がつかない生活を送ってきたのも事実。元フリースタイルの全日本王者でもある平井は、豊田が五輪出場権を獲得した場合に備えて、スタイル変更、他階級への転向を視野に入れながら、明確な目的を持てないまま練習に取り組んでいた。

 今回、秋田わか杉国体のグレコローマン60kg級に挑戦した平井。北京五輪に向けて、もう一度自分の階級であるグレコローマン55kg級で勝負できる喜びを胸に、「12月(天皇杯全日本選手権)を見据えて」階級を上げての挑戦だった
(左写真:国体で闘う平井=赤)。現在、グレコローマン60kg級には勉強になる若手がたくさんいる。「松本(隆太郎)君や北岡(秀王)君と実践で試したいことがある」と、ディフェンスにポイントを置いた。

 準決勝、待ちに待った松本との対戦。ディフェンスでいつもと違う動きに挑戦。「その動きは成功したんだけど、そのあとがぶり返しを受けちゃって」と2ピリオドを連取されて敗退。結果は3位だった。それでも「12月につながったし、ようやく気持ちも盛り上がってきた」と満足だったようだ。

■ルールと階級に翻弄され続けた悲運な選手

 あまり知られていないが、平井は2001年の全日本選手権フリースタイル58kg級覇者であり、2004年の全日本選手権グレコローマン55kg級チャンピオンという現役では唯一両スタイルの全日本タイトルホルダーである
(右写真:2001年全日本選手権で増田荘史にタックルを決める平井=青)。しかし、王者になった途端、平井へ吹く風はいつも逆風だった。

 アテネ五輪で女子が正式種目になり、男子の階級が「8」から「7」へ減らされた。せっかくフリースタイル58kg級で全国の頂点に立った平井だが、同階級は廃止。翌年(2002年)の世界選手権への挑戦は55kg級で挑戦したが決勝戦で敗北したため、元54kg級と元58kg級のチャンピオン、そして全日本選抜選手権で55kg級を制した田南部力と3人によるプーオフに回り、最終的にそこで敗れた。

 その後、タックルが主流のフリースタイルよりパッシブからのローリング攻撃が生かせるグレコローマンに勝機を見出したため、思い切ってグレコローマンスタイルに転向した。

 パッシブを獲って、十八番のローリングで確実にポイントを重ねる……。アテネ五輪は逃したが、北京五輪はこの作戦で狙うつもりだった。だが、アテネ五輪後のルール改正でパッシブが廃止されてしまった。ローリングの体勢に持ち込むためにはタックルなど自力でテークダウンを取らなければならなくなった。生命線のローリングでの得点機会は減ってしまったが、それでも平井はマットを去らず、新ルールに対応するべくトレーニングを積み、グレコローマンで全日本トップレベルの地位を保ち続けた。

 同階級では豊田以外には無敵の存在。学生のタイトルを総なめにした長谷川恒平(青山学院大〜福一漁業)など若手選手の挑戦もことごとく退け存在感がある。今では「パッシブの廃止は痛かったね」と笑い飛ばせるくらい、ルールに対応。すっかり“グレコローマンの平井”が定着している。

 両スタイルで有効な技が得意ということもあり、今でさえ「両スタイル好き。練習も両方する」そうだ。“プロ選手”になれば専門スタイルに練習を絞る傾向が見られるが、「グレコのスタンドのレベルが全体的に落ちている」と平井は指摘。スタンドの練習をフリースタイル陣とやることで“体力を温存するスタンド”から“ポイントを常に獲るスタンド”の確立を狙っている。スタンドで1ポイントを獲ることでグラウンドでは優先が与えられ、勝利にぐっと近づけるからだ。

 「世界選手権でイランと韓国が五輪出場権を獲って、残るはカザフスタンと北朝鮮。どちらもよく分かっている選手」と、国内選考さえ勝ち抜けば北京五輪が現実味を帯びてくることを平井が一番分かっている。「天皇杯ではローリングで決めますよ。今度は惜しい試合じゃなくてしっかり勝ちたい」。

 ルール改正、階級変更――大会運営事情に泣かされ続けた平井進悟が今度こそ、“豊田先輩”を倒し、実力で北京への道をこじ開ける!

(文=増渕由気子)



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