【特集】北京五輪の道は閉ざされたが、今が“最高の環境”…男子グレコローマン60kg級・松本隆太郎【2007年10月17日】








 今年9月の世界選手権でメダルを獲得すれば、北京オリンピックの日本代表に決定する五輪代表選考レース(正確には、12月の天皇杯全日本選手権に出場して決定)。実績を挙げた選手に対する優遇措置だが、そのため、北京五輪を11ヶ月も前にして自分の階級での五輪挑戦を断念しなければならない選手も出てくる。

 男子グレコローマン60kg級では、笹本睦(ALSOK綜合警備保障)が日本代表を決め、笹本に続く何人かの選手がこの階級での北京五輪への道が閉ざされた。今年1月の全日本選手権と6月の明治乳業杯全日本選抜選手権でともに笹本と決勝を争った松本隆太郎(日体大=
右写真)もその一人。大きな目標が消えた。

 松本は2005年に大学2年生で全日本学生選手権を制覇し、今年も全日本学生選手権と国体で優勝。他に世界学生選手権、世界ジュニア選手権、アジア選手権と国際舞台も経験し、冬の全日本チームの欧州遠征に抜てきされるなど、成長度ナンバーワンの若手選手。笹本の壁は高かったものの、闘う時は勝つつもりで向かっていった。それだけに、目標が消えた時は「ちょっとショックでした」と、正直な気持ちを話してくれた。

■66kg級での北京五輪挑戦も選択肢のひとつだが…

 今は持ち直し、「ロンドン五輪を目指しています。北京五輪の翌年の世界選手権には絶対に出るつもりでいます」と言う。他に、来年は世界学生選手権があり(7月・ギリシャ予定)、2009年にはユニバーシアードが続く(6月・ユーゴスラビア予定)。それらの大会での金メダルを目標に毎日の練習に打ち込んでいるそうだが、全日本のトップ選手が軒並み北京五輪を目指して必死の闘いを展開するこの時期、いまひとつ気持ちが乗らなくなってもおかしくはない。

 打開策のひとつとして、66kg級での出場も考えられるが、「そんなに甘くはないでしょう」と、「60がダメなら66で」という考えは否定的。だが、外国選手相手のパワー対策と考えれば、これもひとつの選択肢にはなろう。「55kg級に落とすよりは可能性はありますね」と笑い、この選択の可能性を完全否定はしなかった。

 もっとも、21歳という年齢を考えれば、ここは60kg級で腰を落ち着けて闘い、5年後を目標に確固たる基盤づくりに励むべきだろう。安達巧監督も「もうロンドン五輪への闘いはスタートしている。自分の階級にプライドを持ってほしい」と、“練習の一環”としての66kg級での挑戦には賛成しない。

 笹本も生身の人間。北京五輪を前に大けがをして出場が絶望になる可能性もある。そうなったら全日本の2番手に五輪出場のチャンスが回ってくるだろう。「60kg級のナンバー2の地位は確保しておく必要がある」と言う。また、笹本が66kg級の選手並みのパワーを持っているので、1階級上で闘う意味はあまりないとも分析する。
(左写真:今年6月の明治乳業杯全日本選抜選手権で笹本から第1ピリオドを奪った松本=青)

 「笹本のが城に迫ることを目標に全日本選手権へ挑んでほしい。笹本といい試合をすることが、2009年の世界選手権で入賞するために必要なこと」と安達監督。笹本の場合、全日本選手権で優勝しても、来年3月のアジア選手権(五輪第2次選考会)への参加はないだろうから、2番手にチャンスが回ってくる可能性が高い。国際経験を1大会でも多く積むためには、打倒笹本を目標に全日本選手権に臨み、最低でも2位確保が絶対条件だ。

■世界2位の選手と連日練習ができる!

 1年先輩で昨年の学生二冠王者の北岡秀王(クリナップ)には、今回の秋田国体で勝ち、今年1月の全日本選手権に続いて対戦成績で連勝したが、「ちょっと気を抜けば負ける」という状況。北京五輪後の日本代表争いを優位に運ぶためにも、今度の全日本選手権でも勝って3連勝しておきたい。

 こうして考えてみると、北京五輪への道は消えても、目標とする材料はいくらでも出てくる。何よりも、世界2位の選手と連日のスパーリングができるわけで、こんなに恵まれた環境に身を置けることの“運のよさ”を喜ぶべきだろう。

 今月18日の全日本大学グレコローマン選手権で勝って学生二冠王を奪取し、学生の大会の有終の美を飾る予定。その後は「もっとパワーをつけたい」という課題を持ちつつ、打倒笹本の目標にひた走る
(右写真=直近の目標の学生二冠王を目指して練習する松本)



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