【特集】四冠達成の斎川哲克(日体大)だが、団体四冠逃して「うれしくないです」【2007年11月10日】









 日本重量級のホープ、斎川哲克(日体大=
左写真)が金字塔を打ち立てた。10月8〜9日に行われた岐阜・中津川市で行われた全日本大学選手権で史上7人目となる生四冠王者に輝いたのだ。

 四冠目がかかった大学選手権はフリースタイル。斎川にとっては専門外だ。それでも1回戦からレベルの違いを見せつけ、決勝戦も拓大の藤本健治を2ピリオドともテクニカルフォールで退けた。それでも、本人には表情がゆるむことはなかった。「悔しい……個人で四冠王に輝いても、団体で四冠を達成しなければ意味がないです」。

 ことし、斎川が一番ほしかった称号、それは「団体での四冠(東日本学生リーグ戦、全日本大学王座決定戦、全日本大学グレコローマン選手権、全日本大学選手権)制覇」だった。2年前(2005年)に大学としては31年ぶりに味わった無冠の屈辱、昨年はリーグ戦を制しただけだった。

 今年は苦戦しながらも3大会を制し、目標の「最低でも四冠」にあと1冠と迫っていた。斎川はグレコローマンの練習を返上してフリースタイルの練習に打ち込み、主将として日体大をけん引。「個人はおまけ。団体のために1年間やってきた」と、四冠達成にかける想いは半端ではなかった。

 しかし、決勝に進出したのが斎川と55s級の富岡直希、66s級の志土地翔太の3階級だけで、優勝したのは斎川のみ。一方、拓大は5階級で決勝に進出し、3階級を制した、14.5点差をつけられての完敗。全日本学生王者の門間順輝が84s級で8位に終わったことは大誤算だったが、門間がもし優勝したとしても、逆転は不可能だった。

 「拓大が強かった」と斎川は負けを認めた。「一番悔しい思いをしているのは門間。来年、あいつらがやってくれる」と悲願達成を後輩に託した。

■気になる斎川の今後は…

 学生の団体戦は全日程を終了。斎川が日体大の学生としてマットに上がるのは、12月の天皇杯全日本選手権が最後となる。気になるのは斎川の出場階級だ。自衛隊の加藤賢三が96s級の北京五輪出場枠をことしの世界選手権で獲得。これにより、斎川が84s級で松本慎吾との対決を回避して、階級を上げてくるのではと予想されている。

 これについて、斎川は「階級はまだ決まってない」と前置きしたが、固い決意があるようだ。「ずっと松本先輩の背中だけ見てきた。できれば自分で超えて行きたい」。

 斎川のズバ抜けた身体能力を見ると、どうしても次期日本代表のエースを背負わせたくなる。学生の強豪は、多くが「世界選手権出場、五輪金メダル」を目標に掲げるが、斎川の言葉からは大きな目標は出てこない。「世界なんかまったく見えない。とりあえず松本先輩の背中を追っかけるだけ」。96s級参戦は「周囲が言っているだけです」と話し、意思は84s級出場で固まっているようだ
(右写真=得意のガッツレンチで学生四冠を達成した斎川)

 日体大としては、松本と斎川の同門対決より、2人そろって世界へ飛び出してほしいというのが本音だろう。とは言っても、北京五輪が集大成と見られる松本との対戦は、今度の全日本選手権が最後のチャンスになるかもしれない。男として、先輩との同門対決を選ぶのか、日体大の誇りを胸に96s級で加藤賢三に挑戦状をたたきつけるのか。

 そのジレンマに斎川はどんな決断を下すのだろうか。

(文・撮影=久坂大樹)



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