【特集】“かませ犬”では終わらない! KIDに敗れた男が2位に躍進…土田章博(自衛隊)【2007年11月25日】







 人気絶頂のプロ格闘家、山本“KID”徳郁選手の復帰参戦(フリースタイル60kg級)で、過去最高の観客とマスコミを集め、注目を浴びた昨年度の全日本選手権。その復帰第1戦の相手を務めた土田章博(自衛隊=左写真)が、11月23日に行われた全国社会人オープン選手権フリースタイル66kg級に出場し、3試合に勝って2位に躍進する活躍を見せた。

■次は勝って脚光を浴びたい!

 KIDとの試合は、第1ピリオドこそ互角近くに闘えたものの、第2ピリオドはタックルを見事に受けるなどキャリアの差を露呈してしまって黒星。勝てばこれ以上はないという脚光を浴びるチャンスをものにできず、結果としてKID復帰の“かませ犬”(引き立て役=最下段参照)となってしまった。

 もっとも、こんな経験ができたのは大きな財産でもある。「あの試合を経験したことで、度胸はつきましたね」。プロと見まがうような華やかな舞台でのファイトは、望んでも経験できるものではない。その経験と屈辱を今後の飛躍につなげたいところだったが、その後の練習で首を痛めてしまい、左手が動かなくなってしまうアクシデントに見舞われた。戦線離脱してリハビリ生活へ。今回の大会が復帰戦。すなわち、“世紀の一戦”で黒星を喫したことのリベンジ・ロードのスタートだった。

 66kg級に出場したのは、病み上がりで減量に不安があったため。「ブランクのあと」「1階級上」というハンディをものともせずに決勝まで進んだのだから、まずまずのスタートを切ったと言えるだろう
(右写真:決勝で山本英典選手と闘う土田=青)。復帰できたことや2位に入った喜びより、「悔しいです。まだ全然ダメなことが分かりました」と悔しさの方が先に来るあたりにも、今後に期待できる要素が十分だ。

 「あんな形で(KIDの対戦相手として)脚光を浴びるのではなく、勝って脚光を浴びたいという気持ちは持っています」。心の中に渦巻いているのは「オレはKIDの“かませ犬”じゃない!」という思いか。

■日本最大の激戦階級に割り込めるか

 佐賀・鹿島実高時代にはこれといった実績はなく、自らを“雑草”と言う22歳。雑草とは、踏まれれば踏まれるほど強く成長していくもの。KIDの“かませ犬”になってしまった悔しさは、より強く成長するために神様が与えてくれた試練だ。雑草なら、どんな困難にも立ち向かっていけるはずだ。

 KIDはレスリング復帰を中止し、プロ活動に専念することになった。リベンジすべき相手がいなくなってしまったが、「この階級は強い選手ばかりですから」と話すように、目標とする選手には不足しない階級だ。“かけがえのない財産”を生かせる場は必ずやってくるはずだ
(左写真:大きな注目の中でKIDと闘った土田=青)

 12月の天皇杯全日本選手権の出場資格は持っていないため、今後の当面の目標は来年3月予定の明治乳業杯全日本選抜選手権予選会での勝利であり、全日本社会人選手権の優勝。「自分が頑張れば、後に続く雑草の選手も頑張ってくれると思います」と、数多くの後輩の存在が心の支え。そして今夏のインターハイで躍進を遂げた母校・鹿島実高の存在も刺激材料だ。

 これまで数多くの雑草選手を全日本トップレベルに育ててきた自衛隊の宮原厚次監督は「もともと試合度胸のいい選手。新旧交代の旗頭となりうる選手だ。けがを完治させて、来年こそ大きく飛躍してほしい」と期待する。

 フリースタイル60kg級は日本最大の激戦階級。北京五輪の代表が決まったあとも、4年後を目指してすぐに新たな闘いが始まることだろう。そこに「土田章博」という名前を加えることができるか。強くなるために自衛隊に進んだからには、“かませ犬”のままで終わってはならない。

(文=樋口郁夫)


 (注)かませ犬=もとは闘犬用語。闘犬を育てるため、噛ませて勝つ味を教え自信をつけさせるためにあてがわれる弱い犬・衰えた犬のこと。ボクシングやプロレスの業界用語ともなり、スター選手を引き立たせるために踏み台にされた選手、される選手のことを指す。1982年にプロレスラーの長州力(専大レスリング部OB)が「オレは藤波のかませ犬じゃない」と発言してエースの座奪取を宣言したことで、ファンの間に広まった。



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