【優勝選手特集】男子グレコローマン84kg級・松本慎吾(一宮運輸)【2007年12月24日】








 男子グレコローマン84kg級の松本慎吾(一宮運輸)が9年連続9度目の優勝を果たした。男子の9連覇達成は、14連覇を果たした森山泰年(1982〜95年)に次ぐ史上2位の記録。だが、大記録達成にも松本の口元はゆるまない。「9連覇というより、来年3月のアジア選手権(韓国・済州島)で必ず出場資格を取りにいくという気持ちのほうが大きい」−。

 9月の世界選手権では初戦で前年3位のタフマセビ(イラン)と対戦し敗退。北京五輪への出場権を逃している。その1ヶ月半前に出場したニコラ・ペトロフ大会(ブルガリア)での大会では勝利をあげていた相手だけに、悔しさはなおさらだ。来年3月のアジア選手権で五輪行きのキップをつかむためにも、今大会は勝つことはもちろん、勝ち方も自分に厳しい制約を課した。

 初戦から相手の動きを封じつつ、流れの中で松本らしいしなやかにして豪快な投げを連発。加えて、準決勝の矢野将章(専大)戦では「この前の世界選手権で、俵返しのほかに絶対に必要だと感じた」というローリングも、スムーズに決めた。

 この試合の第1ピリオドの終了間際、矢野のヒザが直撃して左目付近を負傷し、以降は頭部に包帯を巻いた状態での闘いを強いられることになったが、激戦をくぐり抜けてきたベテランのハートが、少々の負傷で揺らぐはずもない。

 太田充洋(大分・津久見高教)を相手に迎えた決勝戦。第1ピリオドはグラウンドの防御からスタートしながら体を入れ替えて得意の俵返し
(右写真)。しっかりと相手の体が返らずに1点に終わったが、このピリオドを奪い、第2ピリオドも、太田の体を今度は豪快な俵返しで垂直に落とし、8−0のテクニカルフォールで勝負を決めた。

 「北京五輪が最後の試合と考えています。だから、オリンピックでメダルを取るという夢を絶対にかなえたい。アジア選手権、必ず出場資格を取りにいきます」と、終始厳しい表情でコメントしていた松本が、何ともいえず柔和な顔に変わる一幕があった。今大会に向けて意外な“伏兵”がいたことを告白した場面だ。「2日前(21日)に子供が生まれて、今回、ちょっと気持ちがそっちに行ってしまって…」。まな娘の名は涼那(すずな)ちゃん。

 たくましすぎるほどたくましい腕に抱かれ、パパに自慢のオリンピックのメダルを見せてもらう頃、涼那ちゃんは8ヵ月になっている。

(文=藤村幸代、撮影=矢吹建夫)



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