【特集】「欧州遠征を経てひと回り大きくなりたい」…フリー66kg級・佐藤吏【2006年1月25日】






 昨年の全日本選手権では、グレコローマンが全階級で社会人選手が王者となったが、それとは対照的に、フリースタイルは3階級で学生が日本一に輝いた。将来へ向けて期待感たっぷりのメンバーがそろった中で、03年世界選手権で銅メダルを取った池松和彦の流れを受ける66kg級で日本一に輝いたのが、学生王者でもある佐藤吏(早大)だ。

 学生二冠王者にして、古豪復活にかける早大の次期主将。次代をになうホープと言っていい選手ではあるが、初の全日本メンバーとして参加した合宿は、これまでにない厳しさを感じたという。「ほかの階級のチャンピオンに比べたら、一段落ちることを痛感しました。技術ができていない。これを身につけなければ強くなれないと思いました」。

 これまでにも練習相手として全日本合宿に参加したことはあった。しかし、“参加させてもらう”のと、“王者として参加する”とでは、練習に対する感じ方が大きく違うという。当然、コーチの接っし方も違うだろう。84kg級で同じく全日本チーム初参戦の松本真也(日大)も同じようなことを言っていたが、これまでにない壁を感じたという。

 「結局、まだ全日本チャンピオンとしての本当の力がないんですね」と佐藤。全日本選手権の決勝(対藤本浩平=拓大)は、第1ピリオドを取られ、第2ピリオドもリードしながらラスト37秒で逆転される劣勢。ラスト数秒でがぶり返しを決め
(右写真)、残り時間が「0」になると同時に勝ち越すきわどい試合の末、第3ピリオドで勝負を決めた試合だった。最後まで勝負をあきらめずに逆転へつなげるガッツは素晴らしかったし、それを実現したがぶり返しという技もきちんと持っている。しかし、「あんな試合をしていてはダメです」と厳しく言う。

 それだけに、全日本の合宿学ぶことは多い。「体力的にもそうですが、技術が乏しいので、和田貴広コーチから世界で通じる技を吸収したいと思っています」と、まずは技術マスターを掲げ、その下地もって3月の欧州遠征を迎えたいという。

 これまでにも04・05年のデーブ・シュルツ国際大会(米国)に出場したことがあり(7位と2回戦敗退)、現地での合同練習で米国選手と手合わせしたことはある。また04年の世界学生選手権(ポーランド)ではモルドバの選手と闘ったことはあるが、欧州の選手と練習した経験はない。その意味で“新たな挑戦”になる欧州遠征だ。

 初の全日本合宿、初の欧州選手との手合わせ…。初体験続きで戸惑いと困難が伴うと思うが、「欧州遠征が終わる頃には、ひと回りもひた回りも大きくなっていたい」と気を引き締める今冬の闘いだ。

 今年の目標は9月の世界選手権出場。そのためには、6月の明治乳業杯全日本選抜選手権でもう1度勝たなければならない。1度勝っただけでは、まだ本物の実力とみなされないのが勝負の世界。池松和彦の巻き返しもあるだろうし、決勝で佐藤に惜敗した藤本もいれば、1階級アップしてきた小島豪臣(日体大)も66kg級に適したも体力をつけてくる頃。強豪は多い。それでも「今年は世界選手権とアジア大会に出たい気持ちでいっぱいです」と気合は入っている。

 また、早大の主将としても勝負の年だ。1〜3年生主体で臨んだ昨年のリーグ戦は、前年の覇者・日体大を破ってブロック1位となったものの、拓大との決勝戦をわずかの差で敗れ、57年ぶりの優勝を逃した。負けが決まった時、マットの隅で人目もはばからずに悔し涙を流したのが佐藤だった
(左写真の右側)

 主将として迎える今季は、昨年の主要メンバーがそのまま残るので、負けは許されない闘いになる。「チーム一丸となって闘いたい。優勝しか狙っていない。主将として自分が頑張らなければ、部員がついてこない」。全日本の練習参加でチームを不在にする分は、結果を出して引っ張っていきたいところだ。

 「まず冬の遠征ですね。世界の中で、自分がどの位置にいるのかをしっかり把握してきたい」。“楽しみ”しっぱいの年がスタートした。


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