【特集】世界で勝つために必要なことは「自信」だけ…グレコ66kg級・飯室雅規【2006年1月27日】






 昨年の世界選手権代表が7階級中6階級で全日本王者に君臨した男子グレコローマンの中で、突出しているのが84kg級の松本慎吾(7年連続7度目)と60kg級の笹本睦(6年連続6度目)、そして66kg級の飯室雅規(6年連続6度目=自衛隊)の3選手。この中で松本と笹本が世界の舞台ででも成績を残しているのに対し、飯室はそれが欠けている。チームの中心になるべきキャリアと実績を持っているだけに、「今年は世界で結果を出さないといけません」と、“内弁慶”返上に燃えている。

 国内では2001年の世界選手権代表決定プレーオフから負けを知らない(66kg級でのアテネ五輪出場を逃して74kg級に挑戦した時を除く)。同僚だった大井将憲が引退したあとは、頭ひとつ抜け出しており、今回の全日本選手権でも豪快な俵返しが続けざまに爆発.。4試合すべてを2−0ので勝つ圧勝優勝だった。それだけに世界で成績を残せないのがもどかしい。

 昨年5月のアジア選手権ではイラン選手を下すなどして銀メダルを獲得し、世界でも通用する実力の端緒は見せてくれた。しかし決勝のユン・タエキュン(韓国)戦は2ピリオドともテクニカルフォールで落とす完敗。秋の世界選手権は、比較的いい組み合わせだったにもかかわらず、十分に勝てるはずの中国戦で不覚を喫してしまい、上位入賞を逃した。どうしても「世界で通用しない」というイメージを払しょくすることができない。

 原因は? 「グラウンドの防御をもっとしっかりやりたい」とは本人の弁。しかし自衛隊の宮原厚次監督は、ずばり「自信を持って闘っていないからだ」と指摘する。「全日本選手権での飯室は、自信たっぷりに闘っている。でも、世界へ出た時の飯室はそうではない。自信を持って闘っていないから、実力を出せないんだ」と厳しい。

 「もっと国際大会を積ませて、場慣れさせることが必要なんですね」という問いには、「経験なんて、今までで十分に積んでいる。本当に勝つんだ、という気迫と自信を持てないのなら、どんなに経験を積んでも同じだ。実力はあるんだ。なぜ、自信を持って闘えないのか」。

 技術や戦術は伝えられても、自信までは伝えられない。自信をつけさせるための指導はできても、自信を持とうとしない選手に自信を植えつけることはできない。宮原監督の自チームの選手への厳しい言葉は、愛情であることは間違いないが、自信を持って闘えないのなら、「もう無駄だ。突き放すぞ!」という意思表示とも解釈したい。

 全日本V6の飯室に必要なことは、世界の舞台ででも「絶対に勝つんだ!」という気迫を持って闘い、心の底から湧き出てくる自信を身につけること。「今年の目標は世界選手権とアジア大会で結果を出すこと。3月の欧州遠征は内容です」と言うが、その“内容”で最も問われるのは、“自信を持って闘っているかどうか”であることを、しっかり肝に銘じてほしい。

 国内の選手は言うに及ばず、世界でもそう強くはない選手に対しては素晴らしい俵返しをさく裂させることのできる飯室。世界トップレベルの成績を残す実力は十分にある。なぜ自信を持たないのか。10月の世界選手権と12月のアジア大会では、自信たっぷりに闘い、堂々と首からメダルをかける姿を見せてほしい。

(取材・文=樋口郁夫)


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