【特集】まず3月、打倒ナザリアンを目指す…グレコ60kg級・笹本睦【2006年1月29日】






 松本慎吾(84kg級)とともに全日本グレコローマン・チームを支える60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)は昨年夏、目標だったアトランタ・シドニー両五輪王者のアルメン・ナザリアン(ブルガリア)を破った。しかし1か月半後の世界選手権では、ナザリアンと対戦する前に敗れ、優勝はそのナザリアンに持っていかれた。

 こんな悔しいことはない。目標だった選手を倒したとはいえ、やはり世界選手権で勝たなければ価値は低い。そんな笹本に、今年3月、ブルガリアへ遠征してゴールデン・グランプリ「ニコラ・ペトロフ大会」へ出場という“リベンジ”(ダメ押し?)の絶好のチャンスが訪れることになった。

 ナザリアンが出場するかどうかは不明で、もしかしたら世界王者の特権である予選大会免除でゴールデン・グランプリ決勝大会(6月・アゼルバイジャン)にかけるかもしれないが、地元での賞金大会ということで出場の可能性は高い。王者の誇りにかけて出場してもらいたいところだ。

 昨夏の対戦の時点では、ナザリアンは世界一の選手ではなかった(注・03年の世界王者なので「現役世界王者」と記しても間違いではないが、04年アテネ五輪で優勝を逃しているので、現役の世界ナンバーワンではなかった)。今回は紛れもなく“60kg級世界最強のレスラー”だ。笹本が00年シドニー五輪で豪快に投げられて完敗を喫し、それ以来、常に標的として心の中心においてきた強豪だ。燃え方も前回より違ってくるのは当然だろう。

 笹本はナザリアンを「世界王者になったからといって、闘い方が変わっているものではない。新しい技を使ってくるはずもない」と言い切る。決して恐れていないことが、この言葉からもくみとれる。アテネ五輪での実質的に勝っていた相手であり(あきらかな誤審で負けにされる)、実質2連勝の強みか。ならば、「昨夏と同じ闘い方で挑めば勝てる?」と聞いてみると、ちょっぴり笑みを浮かべたにとどまったが、内心期するものがあるのは間違いないだろう。

 しかし、ナザリアンを目標にだけ闘えばいいという状況ではない。昨年の世界選手権でメダル獲得を逃したのは、欧州2位のエウセビウ・ディアコヌ(ルーマニア)に敗れたため。アテネ五輪は笹本より下の順位の選手であるが、「俵返しにすごく自信を持っている。日本では考えられないすごい俵返し」と、今後の強敵になる要素は十分にある。上だけを見ていては足元を救われかねないのが、現在のグレコローマン60kg級。ナザリアンをして「最高にハイレベルの階級」と言う激戦階級だ。

 それだけに、この冬の欧州遠征は欧州選手の個性ある俵返しをしっかりと学び、防御を身につけて帰ってこなければならない。「いろんな外国選手とやりたい。スタンドではポイントを取られることはないと思う。グラウンドの攻防です」。打倒ナザリアンを胸に、そしてナザリアン以外の選手も視野にいれながら、笹本の2006年の闘いが始まった。



《前ページへ戻る》