【特集】毎日が試合のような緊張感。欧州遠征で力を試す“新参者”…グレコ74kg級・岩崎裕樹【2006年2月19日】






 昨秋の世界選手権に初出場した男子グレコローマン74kg級の岩崎裕樹(銀水荘)。その約1か月後の国体で菅太一(警視庁)に敗れて実力不足を痛感しながらも、12月の全日本選手権決勝で菅にリベンジして優勝。無事、全日本チームに戻ってきた。

 「まだ新参者です。もっと練習を積んでチームに慣れたいと思います」と謙虚に話すが、全日本チャンピオンという肩書きは自信を持たせるパワーを持っている。練習での仕種にしても、インタビューの受け答えにしても、初めての全日本入りだった昨年夏よりは確実に堂々としている。

 3月には、全日本チャンピオンとして初めて冬の遠征に参加する。これについて問われると、「去年も行っています」と即答。だが、これは記憶違い。8月のポーランド遠征は経験しているが、冬の欧州遠征には参加していない。“新参者です”という言葉とは裏腹に、日本代表が“自らの指定席”という思いからくる錯覚なのだろう。ひと回りもふた回りも自信をつけていることは間違いない。

 今月から、パーテールポジションからの攻撃でルールが微修正され、足を相手の腹の下に入れてもいいことになった。「上げやすいですね」と好材料である一方、「上げられやすくもなるわけで、守りの練習もいっそう必要になります」と喜んでばかりはいられない。

 リフト技といえば、以前はバック投げがほとんどだった。昨春のルール改正以来、組み手を逆にしての俵返しの練習を集中的にこなしてきた。「瞬発力には自信がある」と話していただけに、組み手の変換さえできれば難しいことではない。1回目のリフトに関しては、かなり自信が持てるまでになったようだ。

 だが「細かい技術はまだまだ。一発で上がらなかった時の攻撃に課題が残ります」と自らの弱点をきちんと把握している。それの克服が現在の課題。3月の遠征(合宿&試合出場)は、その成果を試す場でもある。74kg級は世界10位までに欧州選手が9人も入っている勢力図。試練の場としてはうってつけの遠征となるだろう。

 「6月の選抜(明治乳業杯全日本選抜選手権)、そして世界選手権へつながる何かを学んできたい」。国内の大会だけではなく、世界での闘いに目を向けていることが伝わってくる言葉。万年2位・3位の選手と、世界選手権の代表になり全日本チャンピオンに輝いた選手とでは、表情のみならず言葉の端々に違いが表れるもの。今の岩崎は、間違いなく後者の顔と言動に変わっている。

 もっとも、この階級は国際大会で実績のある菅太一やユニバーシアード3位の鶴巻宰(国士大)がいて、激戦階級であることは間違いない。全日本選手権で菅に勝ったとはいえ、警告によっての辛勝であり、実力差はそう大きくないのは誰の目にも明らか。今回の合宿には、その両選手も参加しており、虎視眈々(こしたんたん)と岩崎の首を狙っている。

 スパーリングでは「けっこうポイントを取られてしまいます」と言う。「弱いところを見せると、つけこまれる。スパーリングでは1点でも取られたくない。いつも試合のつもりでやりたい。気持ちでは絶対に負けたくない」ときっぱり。毎日が試合のような緊張感で臨んでいる全日本合宿。この厳しさが、さらなる飛躍へつながることは間違いない。

 03年の静岡国体のために静岡の銀水荘に採用され、レスリングを続けてきた。結果を出さなければ、もうレスリング活動はさせてもらえないという瀬戸際だった昨年の明治乳業杯全日本選抜選手権で優勝し日本代表へ。それで北京五輪までサポートを受けられることになった。全日本王者に輝いたことで、「期待がひしひしと伝わってきます」と言う。

 経験を積み、手ごわいライバルにもまれて確実に力をつけている“ホテル職員”。職場の強力なサポートによって、さらに実力を伸ばさねばなるまい。


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