【特集】63kg級・伊調馨が宿敵S・マクマンを撃破【2006年5月20日】






 63kg級の伊調馨(中京女大)とサラ・マクマンの対戦は、アテネ五輪同級決勝と同じカード。この日、最も注目を集めた。伊調もマクマンについて「いつ戦っても強い。今大会一番注目していたのはサラ」と語り、その実力を認めている。

 試合は予想通りの接戦となり、第1ピリオドは0−0のまま延長クリンチへ。コイントスでタックルの権利はマクマンに与えられた。フリースタイルのクリンチではコイントスで勝った方が99%有利だ。しかし伊調は落ち着いていた。相手が伊調を持ち上げた瞬間、体に巻き付いて相手の足をとった。

 そのままうまくバックに回り、1ポイント。「こんなこともあるんだな」と笑顔をこぼしたが、このミラクルも、もちろん実力のうち。競ったピリオドを勝ち取ったことで、流れは伊調に傾いた。

 「サラは最初からガンガン攻めてきてパワーもスピードもあった。サラの強さを感じた」と伊調。マクマンの戦い方をよく知っていることもあり、相手のミスにつけ入る作戦に出ていた。第2ピリオドでは中盤にフェイントから1点を奪い、それを守り切った。

 アテネ五輪と同じく楽勝とはいえなかったが、これからの世界選手権でもライバルになるであろう相手に1点も許すことなく勝利したことは大きい。栄和人監督(中京女大職)も「マクマンは力とバランスを兼ね揃えた最高の選手」とコメントした上で「あれだけ苦しんで勝ったということは、やっぱり(伊調の方が)強かったということ。執念、気迫もすごかった」と闘いぶりを称えた。

 しかし、本人は「サラのミスを誘おうとしたので、10点ぐらい」と厳しく自己採点。結果オーライではなく、勝ち試合にも自分自身でしっかり課題を見出している。「次は自分から攻めてポイントを取りたい」と意欲を見せた。

 元々、攻めと守りが半々というのが伊調のスタイル。それでもレスリングに大切な“攻めの姿勢”を重視している。この意識の高さは、今大会の団体優勝はもちろん、世界選手権へ向けても明るい兆しと見ることができる。

(取材・文=神谷衣香、撮影=矢吹建夫)


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