【特集】世界ジュニア王者目指す“壁にぶつかった逸材”大沢茂樹(山梨学院大)【2006年6月23日】






 若い選手や新しい選手の台頭があった今月初めの明治乳業杯全日本選抜選手権のフリースタイル。しかし、新チャンピオンの中に昨年1年生で全日本大学王者と国体王者に輝いた逸材、フリースタイル60kg級の大沢茂樹(山梨学院大=左写真)の名前がなかった。チャンピオンに名を連ねられなかったどころか、大会そのものにも出場できず、観客席から悔しそうに試合をながめていた。

 茨城・霞ヶ浦高時代の2004年には3冠(全国高校選抜大会、インターハイ、国体)を獲得。昨年はアジア・ジュニア選手権で優勝し、全日本チャンピオンに輝くことになる湯元健一(日体大)には国体と全日本大学選手権で2連勝。今回の明治乳業杯で優勝して世界選手権代表になった高塚紀行(日大)にも、昨夏の全日本学生選手権で敗れたあと全日本学生王座決定戦と全日本大学選手権で2連勝。飛ぶ鳥を落とす勢いで先輩選手を蹴散らした。今、ひとつの壁にぶつかった。ここを乗り越えて飛躍できなければ、ずるずると落ちてしまい並の選手で終わってしまうだろう。

 明治乳業杯へ出場できなかったのは、昨年12月の全日本選手権で、初戦で井上真一(警視庁)に0−2(1-@Last,2-3)で敗れて3位以内に入れなかったためと、ことし3月の予選会で太田亮介(警視庁)に1−2(6-5,3-BBig,4-5)で敗れたため。いずれも1ポイント差か同点・内容差によっての惜敗。社会人選手のうまさの前に、接戦をものにできなかった格好だ。

 井上と太田との試合で自身が感じるのは防御の弱さだった。また、太田との試合は「言い訳になるので言いたくありませんが、減量の失敗がありました。自己管理の甘さです。そうでなくとも、簡単に投げ技にかかったりして、基本ができていませんでした」。1年生で大学王者に輝いたとはいえ、「明治乳業杯に出られなかったということは、それだけの実力だったこと。国体も全日本大学選手権も、たまたま勝っただけなんです。次にやったら負けるかも。いつやっても勝てるようにならなければなりません」と、厳しく自己を採点した。

 幸い、6月16日から始まった全日本合宿には将来性を期待されて召集された
(右写真)。コーチ陣の期待度は依然として高い。また、4月のJOC杯ジュニア選手権では同年代から下の選手を相手に全試合2−0かフォールで勝って優勝し、世界ジュニア選手権(8月29日〜9月3日、グアテマラ・グアテマラシティー)への出場権を得ることができた。今が踏ん張りどころだ。「去年アジアのチャンピオンですから、今年は世界でのチャンピオンが目標」。そのためには、社会人選手相手に露呈してしまった防御の弱さを克服することと、持ち味である3点タックルを確実にものにしていきたいという。

 これまでの国際戦といえば、日韓戦とアジア・ジュニア選手権だけ。欧米の選手とは初対戦となる。アジア・ジュニア選手権では、試合前の練習でイラン選手と手合わせし、「パワーがすごかったので66kg級の選手と思ったら、60kg級の選手だった」と、日本選手とは違う外国選手のパワーを感じた。欧米選手相手でも体力差を感じるかもしれないが、「怖さはありません。自分の力がどこまでか、試してみたい」と、楽しみの方が強そうだ。

 昨年はシニアの世界選手権(ハンガリー・ブダペスト)を観客席から観戦した。「1ポイント狙いのレスリングが主流でした。3点を取れる技を身につければ、強みだと思います」。それはジュニアの世界選手権でも同じことだろう。

 ことし世界選手権へ行く高塚は、霞ヶ浦高時代の1年先輩でもある。「すごい闘争心。どんな時でも前に出てくるガッツとか、自分に足りないものを持っています」。その高塚は昨年の世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得している。最低でもそれを越えることを、当面の目標としたい
(左写真:高塚=赤=とは勝ったり負けたりのライバル)

 昨秋の活躍が目ざましかっただけに、やや出遅れた感もあるが、まだ20歳の若さ。壁にぶつかり、そこからはい上がる経験も必要だ。ことしはジュニアの世界王者を目指し、着実に前進してほしい。


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