【特集】「高塚に勝って優勝します」…インカレで再起をはかる湯元健一(日体大)【2006年8月24日】





 昨年、20歳の若さで世界選手権代表を射止めたフリースタイル60kg級のホープ・湯元健一(日体大4年=右写真)。「世界で勝てるようになりたい」と、今年はさらなる飛躍を誓っていたが、6月の明治乳業杯全日本選抜選手権では連覇に失敗。プレーオフでも敗れ、北京五輪を見据えた世界への挑戦は夢と消えた。

 しかし、モチベーションは下がっていない。次の目標はきょう8月24日から始まる全日本学生選手権(インカレ)だ。「全日本タイトルは2つ持っているけど(昨年の全日本選抜選手権と全日本選手権)、学生タイトルを持っていない」と、スターとして変わった一面を持つ湯元がこの夏にかける思いとは――。

■3週間連続の減量が影響か!? 明治乳業杯2回戦敗退

 5月の東日本学生リーグ戦では、日体大主将としてチームを優勝に導き、安達巧監督とともに何度も宙に舞った。リーグ戦後は、チーム内に「今度は選抜(明治乳業杯)だ!」という雰囲気が生まれ、メンタル面では最高の仕上がりだった。しかし、体力的には、予選リーグ、日大との決勝戦、明治乳業杯と3週連続の減量があり、社会人として年に数度の試合にピタリと照準をあわせてきた太田亮介(警視庁)や、リーグ戦では1階級上の66kg級に出場していた高塚紀行(日大)にスタミナ面でハンディがあったことは否めなかった。

 「減量苦を言い訳にしたくない?」との問いに、こくりとうなずいた湯元は「減量苦よりも、試合続きで追い込んだ練習が積めなかった」と練習不足を敗因に挙げた。昨年31年ぶりに無冠に終わった強豪・日体大がリーグ戦で優勝できたのも、正月返上で練習に励んで自信をつけたからこそ。明治乳業杯の2回戦で太田亮介に敗北すると、体力の低下を補っていたメンタル面が崩れ出し、高塚とのプレーオフでは自慢のタックルが不発
(左写真)。「確実な力を持っていないということが分かった」とうなだれた。

■気持ちの切り替え

 プレーオフで対戦した高塚とは、それまでの対戦成績は6勝2敗と相性がよかった。それだけに試合後のショックは大きかった。だが、すぐに教育実習のため3週間ほどマットを離れたことが功を奏し、悪い気持ちを引きずることがなかった。試験も終わった7月下旬には、すでに吹っ切れた湯元が日体大のマットに戻っていた。「もっと攻めないとダメ」と明治乳業杯で攻め切れなかった自分に喝を入れるように、マットの中心に陣取り、スパーリングを休むことなく続けた。

 世界代表からもれたことをプラスに考え、ナショナルチームの合宿や海外遠征はすべて断り、「今年の夏は国内で一から鍛えなおす」と、ホームマットである日体大で基礎からやり直した
(下写真=日体大で練習する湯元)。試合の調整ばかりでさびついてしまったタックルは、すでに研ぎ澄まされたものに戻り、「落とし前はインカレできっちりつけます」と打倒・高塚に闘志を燃やした。

■学生タイトル総なめが新たな目標

 インカレの目標は高塚へのリベンジマッチだけではない。インカレは学生最高峰のタイトルで、多くのトップ選手が全日本タイトルのステップととらえている。しかし、全日本のタイトルをすでに2つも持っている湯元には、まだインカレで優勝経験がない。湯元は、「周囲から『順番が違うやろ』って突っ込まれます」と苦笑する。大学最終学年となった今夏、インカレ・チャンピオンの座は湯元にとって未知の世界であり、それが最大のモチベーションとなっている。

 世界への道が断たれても、「学生タイトルを総ナメにする」。東日本リーグ戦優勝に続き、インカレ、フリー王座、大学選手権と学生の大会は目白押し。湯元のモチベーションは右肩上がりだ。

 またフリー60kg級は先日、人気プロ格闘家の山本“KID”徳郁(KILLE BEE=山梨学院大OB)のアマチュア復帰が発表されたばかり。ここでトップ戦線から外れることは許されない。

 スター街道をひた走ってきた湯元が、挫折を経て復活ののろしをあげることができるだろうか。大阪で湯元が今年の夏を締めくくる!

(文・撮影=増渕由気子)


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