【特集】両スタイル制覇で松本真也にもリベンジ! 影のMVP!…磯川孝生(拓大)【2006年8月30日】





 8月24〜27日に行われた全日本学生選手権(インカレ)では、フリースタイル66kg級の佐藤吏(早大)が大会3連覇を飾り、最優秀選手賞にあたる文部科学大臣杯を受賞した。その佐藤に劣らぬ活躍をしたのが、84kg級の両スタイルで優勝した磯川孝生(拓大
=右写真)だ。大会4日間で、計11試合を勝ち抜いた。まさに“影のMVP”と言っていいほどの活躍ぶりだった。

■両スタイル出場による疲労、短時間での減量、最大のライバル松本との対戦

 インカレで両スタイルにエントリーすることは決して珍しいことではない。だが、どちらも優勝するのは難しいこと。両スタイル制覇の目標は、学生界で突出した力を持っている選手のみが掲げられる特権だ。

 磯川も84kg級の学生界では突出した選手だが、フリースタイルには永遠のライバルいる。それが日大の松本真也だ。高校時代は互いに“超高校級”と称され、大学へは鳴り物入りで入学。磯川が大学1年でインカレを制すると、2、3年では松本が優勝。全日本の舞台でも、2004年の天皇杯全日本選手権で磯川が初優勝を飾ると、松本も負けじと翌05年の天皇杯で優勝している。

 磯川VS松本――。この対決が今大会、究極のカードだったことは間違いない。大学で獲得してきたタイトルや経歴もほぼ同じだったが、今年の6月、松本が一足先に世界選手権への切符を手に入れてた。それを許したのは、磯川が6月の明治乳業杯全日本選抜選手権の決勝で松本に敗れたため。松本に一つ借りを作ってしまった。

 「インカレは松本君へのリベンジをテーマに練習させてきました」と拓大の西口茂樹コーチ。さらに磯川は、両スタイル制覇という過酷な目標を掲げた。

 大会はグレコ、フリーの順で行われたため、グレコで5試合を戦い抜いた後
(右写真=グレコで優勝)、約6時間で5kgの減量を行った。「トーナメントが一通り終わり、体力的に疲れてしまった」とフリーへの切り替えに苦労したようだが、「最後のインカレだったし、両スタイルやることでレスリングに幅を持たせたかった」と選手の鑑(かがみ)のような精神で乗り越えた。

■前に出ることだけを考えて臨んだ決勝戦

 フリーでの決勝戦は、予想通り松本との一騎打ちに
(下写真)。「作戦は特になかったです。前に出ることだけを考えていた」。その言葉どおり、第1ピリオドは松本にプレッシャーをかけて、場外に押し出した。その1点を守り、このピリオドを先取。

 第2ピリオドは形勢を挽回しようと松本が強引にタックルを狙ってきたが、「懐に入ってくる動きはすべて見えていた」という磯川は、タックルをうまく切ってがぶり、松本をコントロール。そのまま得点がないまま終了し、クリンチ勝負に。コイントスの結果、松本の有利な体勢で延長が始まり、誰もが第3ピリオドへの突入を予感させた。

 しかし、「仲間の応援が背中を後押ししてくれた」と、チームメートの声援を力に変えた磯川が松本の手を切ってスタンドの状態へ。死に物狂いに攻め立てる松本を冷静にさばいて、2ピリオドを連取した瞬間、磯川が3年ぶりに王者に返り咲くと同時に、両スタイル優勝をやってのけた。

 優勝しても派手なガッツポーズはなく、敗れた松本に歩み寄って互いの健闘を称えあった。西口コーチも「松本が一皮むけると、孝生もまた成長する。日本の重量級が世界で苦戦しているが、2人で切磋琢磨しあって頑張ってほしい」と磯川を祝福すると同時に、4年間いいライバル関係だった松本にもエールを送った。

■西口コーチ、「文部科学大臣杯をあげさせたかったなぁ」

 西口コーチは、優勝の瞬間、文部科学大臣杯の受賞を確信したという。今大会に限っては試合内容と結果を見ても磯川がダントツだったが、大会3連覇の佐藤吏が受賞した。代わって磯川は堺市長杯を受賞。「いやぁ、文部科学大臣杯をあげさせたかったなぁ」と笑顔で悔しがる西口コーチ。それだけのがんばりを磯川は見せた。

 4日間で11試合、2度の計量。そして究極のライバルとの対決――。インカレだからこそ成し遂げられた磯川の記録は永久に残る。文部科学大臣杯は取れなかったが、会場にいる人は分かっている。今大会、誰が一番活躍したかを。

(文・撮影=増渕由気子)


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