【特集】世界選手権へかける(21)完…女子63kg級・伊調馨【2006年9月23日】






 吉田沙保里の「国際大会100連勝挑戦」が話題となっている今大会。その影に隠れてしまってほとんど騒がれることがないが、63kg級の伊調馨(中京女大=左写真)も国際大会で「12大会連続優勝を含む48連勝」を継続中。国内大会を入れると、19大会連続優勝を含めて「69連勝」と伸ばしている。

 吉田の連勝記録が騒がれ始めたのが、03年のニューヨーク世界選手権で国際大会14大会連続優勝を達成し、50連勝を超えたあたりから。今年優勝すれば、吉田とともに女子として初めて5年連続世界一(アテネ五輪優勝を含む)という記録も樹立するわけで、もっとこの偉業へスポットがあたらねばならないだろう。

 しかし、多くの選手がマスコミが言われるまで記録というものに無頓着で、目の前の一戦一戦を全力で闘っているように、伊調も記録にはさほど関心はなさそう。「5連覇? そうですか。あんまり意識なかったです。北京オリンピックで姉と優勝することに目が向いていますから」と話す。目指すものは連勝や連覇ではなく、北京オリンピックの姉妹優勝。その目標の前には、どんな快挙も“付随”といった価値でしかないのかもしれない。

 そんな伊調が、記録面でただひとつ、心に引っかかっているものがある。初の国際大会となった02年アジア大会(韓国・釜山)で、シュ・ハイアン(中国)に敗れ、その後、リベンジする機会がないことだ
(右写真=ハイアンに敗れて金メダルを逃し、表彰台でがっくりする伊調)

 今年5月のワールドカップ(名古屋)ではハイアンが来日し、「4年ぶりのリベンジ」と張り切ったものの、反対側のブロックで中国がカナダに負けたため、対戦する機会がなかった。

 選手席で中国の敗戦を見ていた伊調に、「(0勝1敗とはいえ)黒星先行の外国選手が消えてくれないね」と声をかけると、「負け越している外国選手がいる、って書きたいんでしょ…」と、何とも悔しそうな顔をした。心の中に、国際舞台デビュー大会での痛恨の1敗のしこりが残っているのは間違いない。

 国際大会で負けたもう1人の選手であるサラ・マクマン(米国、03年3月のクリッパン国際大会で黒星)には、その後、5連勝しており、油断できない相手であることは間違いないが、今では完全に挑戦を受ける立場だ。しかし、ハイアンには、世界4連覇を達成した今でも、「挑戦を受ける」という気持ちはなさそう。

 そのハイアンが、世界選手権にもエントリーしてきた。「挑戦者の気持ちでリベンジ戦に臨みます」。今大会へ臨む最大のエネルギーとなるのは、連勝記録でも世界5連覇でもなく、ハイアンへのリベンジの気持ちなのかもしれない。

 今シーズンは3月に右肩を痛め、練習は思うように積めない半年だったという。5月のワールドカップではきっちり結果を出したものの、6月には、教育実習で約1か月間、ほとんどマットに上がれなかった。7月中旬の全日本合宿(新潟・十日町)では体力的についていけず、かなり大変な思いをしたようだ。

 「スパーリングや追い込む量は、いつもの年より下回っています」。それが世界選手権を目前に控えて、ここまでの練習を振り返った感想だ。しかし「不安になるほど?」と聞かれると、「ここまでやってきた経験があるので…」と話し、悪い中にも力を出すすべを知っていると言わんばかり。

 世界一に何度も輝いている選手にとっては、猛練習がすべてではない。本番までには、きっちりと仕上げてくれることだろう。ハイアンへのリベンジによって“過去を清算”し、北京五輪へ向けて“敵なし”の強さを見せてくれることが期待される。


 ◎伊調馨の最近の国際大会

 【2005年9月:世界選手権(ハンガリー)】

1回戦   BYE
2回戦  ○[2−0(3-2,2-1)] Sara Mc Mann(米国)
3回戦  ○[2−0(3-0,3-0)] Helena Allandi(スウェーデン)
準決勝 ○[2−0(3-0,3-0)] Anna Polovneva(ロシア)
決  勝 ○[2−0(3-0,1-0)] Jing Ruixue(蘇麗慧=中国)

 
【2006年5月:ワールドカップ】

予選1回戦 ○[2−0(1-0=2:05,1-0)] Sara McMann(米国)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[2−0(TF6-0=1:59,TF6-0=1:48)] Ludmila Golovchenko(ウクライナ)
決    勝 ○[フォール2P1:11(4-0、F6-0=1:11)] Megan Dolan(カナダ)



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