【特集】世界選手権へかける(20)…男子グレコローマン66kg級・飯室雅規【2006年9月23日】






 男子グレコローマン60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)、同84kg級の松本慎吾(一宮運輸)、同66kg級の飯室雅規(自衛隊、左写真)。ともに1977年度生まれの同期生で、日本レスリング界を代表する選手だ。

 しかし、飯室は他の2人と決定的な違いがある。それは海外での成績だ。笹本と松本は世界選手権のメダルこそないが、常に活躍が期待されるナショナルチームの柱。笹本は00年シドニー五輪8位、04年アテネ五輪5位、松本は02年アジア大会優勝、04年アテネ五輪7位と、シニアの世界大会で結果を出してくるのに比べ、飯室の海外成績はこれといったものはない。 

 国内では絶対的なチャンピオン。05年12月には天皇杯全日本選手権で6連覇を達成した。「初めて全日本を制した時はうれしかったけれど…」。全日本で毎年勝つことは大変なことだが、今の飯室の視線は世界のマットで結果を残すことに注がれている。そもそも、66kg級は、活躍が期待される階級。「五輪に出なくてはいけない階級だとは分かっています」と、それは本人が一番分かっている。

 シドニー五輪では、1階級上のグレコローマン69kg級で永田克彦(当事警視庁=現プロ格闘家)が銀メダルを獲得。フリースタイルにおいては、03年の世界選手権で同じ66kg級の池松和彦(当事日体大助手=現K-POWERS)が銅メダルを獲得し、アテネ五輪出場を真っ先に決めた。「スタイルは違うけれど、同じ階級なんだからオレもできる」と気を吐いたが、飯室はアテネ五輪のマットを踏むことすらできなかった。

 アテネ五輪に不出場の挫折を味わった時、飯室は26歳だった。「引退する気はありませんでしたね。五輪への出場枠が取れなくて、もっとがんばろうという気持ちが強かったです。次の五輪が体力的にも技術的にも一番ピークだと思っているから」と、30歳で迎える北京五輪へかける気持ちは人一倍強い。

 しかし、勝利の女神はなかなか微笑まない。4度目の出場となった昨年の世界選手権の2回戦。グラウンドの攻防で3コーションを受けて失格。「自分はグラウンドが得意なんですが、去年は組めなくて終わっちゃって……」。得意の俵返しを見せ付ける前に試合終了。なんともふがいない内容で大会を終えてしまった。

 北京五輪への新たなスタートとして心機一転臨んだ大会だっただけに、悔しさをにじませた。そのため、今最も力を入れているのは、グラウンドでの俵返しの練習。同じてつは踏まないとばかりに、笛とのクラッチを組むタイミングを念入りにチェックしている。

 9月13日の公開練習日に、マスコミ陣に衝撃的な事実が告げられた。グレコの柱、笹本と松本がともにけがをしているという。両者ともに「もう大丈夫です」と笑顔で抱負を語ってくれたが、最高の状態ではない。

 そんな中、嘉戸洋専任コーチは「相変わらずのマイペースだけど、けがもなく順調にきている。今年はいけるかもしれない」と飯室の活躍を予想。8月、ポーランドで行われた伝統ある「ピトラシンスキ国際大会」ではチーム唯一の5位入賞
(左写真)。しかも3位決定戦では「残り3秒まで勝っていた」と悔やむ悔しい5位だった。

 「出場メンバーも世界選手権とほぼ同じで、自信につながりました」と飯室自身も表彰台へ手ごたえをつかんだようだ。最低目標として3回戦出場、そして10位以内を具体的な目標に挙げたが、メダルの可能性はチームの中で一番高いかもしれない。

 世界選手権のプレ大会である「ピトラシンスキ国際大会」5位の成績は、世界選手権メダル獲得の布石となるか。万全な仕上がりを見せる飯室が、グレコのエースに名乗りを上げる。

(取材・文=増渕由気子)


 ◎飯室雅規の最近の国際大会

 【2005年10月:世界選手権(ハンガリー)】

1回戦 ○[警告2P1:07(4-0,Disq2-0=1:07)] Valijon Jonhurozov(ウズベキスタン)
2回戦 ●[警告3P1:00(3-2,0-5,Disq1:00=0-1)] Li Yanyan(李岩岩=中国)

 
【2006年3月:ポーランド・オープン(ポーランド)】
                       
1  回  戦  ○[2−0(3-1,@Last-1)] Atila Drescler(ハンガリー)
2  回  戦  ○[警告2P1:20(TF7-0,1-0)] Aleksej Djakonow(リトアニア)
3  回  戦  ●[0−2(1-@Last,0-4)] Ulwan Erkan(トルコ)
敗者復活戦  ●[警告2P1:30] Sylwester Charzewski(ポーランド)

 
【2006年3月:ニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)】

1回戦 ●[0−2(TF0-6,TF0-6)] Vachadze Ambako(ロシア)

 
【2006年8月:ピトラシンスキ国際大会(ポーランド)】

1  回  戦 ○[2−0(2-0,5-3)] Jani Hermansson(フィンランド)
2  回  戦 ○[2−0(3-0,2-1)] Moises Sanchez(スペイン)
3  回  戦 ●[0−2(3-5,0-2)] Elbrus Mammadov(アゼルバイジャン)
敗者復活戦 ○[2−1(@-1,1-@,4-0)] Mehdi Tavakoli(イラン)
3位決定戦 ●[1−2(B-3,0-4,0-3)] Ulvan Erkan(トルコ)



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