【特集】ローリング地獄で失点、得意の俵返しも不発…男子グレコローマン66kg級・飯室雅規【2006年9月25日】





 勝利の女神はまたも微笑んでくれなかった。5度目の出場となる男子グレコローマン66kg級、飯室雅規(自衛隊)の2006年世界選手権は、イオン・パナイト(ルーマニア)のローリングに沈んだ。「最低3回戦まで勝ち進んでベスト8に入りたい」。その最低条件をもクリアできず、初戦敗退と悔しい結果となった。

ローリングで転がされる飯室。

 現在のルールは、クロスボディロック(俵返しの組み手)からの攻防が勝負の分かれ目と言われているが、この試合でカギとなった技は、意外にも旧ルールで重宝された“ローリング”だった。

 減量もうまくいき、「調子も非常によい」と満を持しての登場。グレコの柱である笹本睦(ALSOK綜合警備保障)や松本慎吾(一宮運輸)がけがを抱えているだけに、順調に調整を進めてきた飯室にはナショナルチームのフロントからの期待も厚かった。

 飯室の海外での課題は、グラウンドでのディフェンス強化だ。ここ数年はそれをクリアするために猛練習を積んできた。

 第1ピリオドのスタンド、両者無得点によるコイントスで、相手に攻撃の優先権が与えられた。飯室の攻撃力は8月にポーランドで行われた「ピトラシンスキ国際大会」でも証明されており、まずは30秒をしっかり守って、攻撃の時間に移りたいところ。ホイッスルと同時に俵返しのクロスボディロックをきっちり切って、腹ばいに。この時点で5点の大技を食らってのテクニカルフォールは回避された。

 しかし、相手は組み手を切り替えてバックへ回り、飯室の体が次々に回転して、“ローリング地獄”へ移行。最初で「切れるかなと思った」という飯室は、マット中央部分でディフェンス体勢に入ってしまったため、3回ローリングを食らって計6失点。飯室がグラウンドで攻撃の機会が得る前に第1ピリオドを奪われてしまった。

 実はこの相手、2003年世界選手権(フランス)で一度対戦しており、飯室が世界選手権3度目にして初めて白星を挙げた選手。「その時もローリングで5点を取られたんです。その後に取り返して勝ったんですけどね。同じ技にかかってしまいました」。

グラウンドの防御に課題が残った飯室。

 後がない第2ピリオド。再びグラウンド攻防で先にディフェンスとなった飯室は「(回されても)最低限の点数で抑えられるように」と、今度は場外際へ移動してディフェンスを試み、これが当たって2失点でディフェンスタイムを終えた。

 リフトの得意な飯室だけに、逆転は十分に可能だったが、こん身の力を振り絞っての俵返しは不発。「焦ってしまった」そうで、むなしく試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 「試合をする前に終わってしまった」と、不本意な3コーションを取られて終わった昨年の世界選手権(ハンガリー)から1年。手足が長く「グレコローマンをやるために生まれてきた」と称される飯室の才能はまたも世界で開花しなかった。

 「点数を取られてしまって、焦ってしまいました。やっぱり防御をきちんとしなくては…」。飯室にとってディフェンスの強化は、永遠の課題になりそうだ。北京五輪まであと2年、国内で絶対王者を誇る飯室は、自らの手で世界の牙城をくずさねば、北京五輪へのキップは見えてこない。

(取材・文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)



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