【特集】愛着ある階級の有終の美に涙! さあ、新たな挑戦…女子51kg級・坂本日登美【2006年9月30日】






 決勝を含めて相手に1ポイントも与えない圧勝だった。しかし、女子51s級の坂本日登美(自衛隊)は、リンゼイ・ベライル(カナダ)との決勝戦が終わると、涙が止まらなかった(右写真)。昨年のチャンピオンだ。勝つのは当然というほど、他の選手との実力差がある闘いだったにもかかわらず…。

 「いろんな思いというか、(51kg級は)これで最後なのだということや、妹(48kg級の坂本真喜子)が出場できなくて、それが悔しかったこともあって…。自分の力だけでなく、たくさんの支えがあってここまで来られた。妹も見ていて2倍力が出た」。今までの様々な思いが込み上げてきた。そして周りへの感謝の気持ち。それらがすべて詰まっていた涙だった。

 初戦の2回戦、第1ピリオドの開始20秒間に3点となる正面タックルを決め、さらにもう1度同じような技を決めた。わずか20秒で6−0として切り上げ、第2ピリオドも1分未満で終わらせた。続く準々決勝と準決勝においても果敢に攻め続け2−0(3-0,2-0)、2−0(4-0,7-0)で勝利。

 決勝で対戦するベライルは、2004年7月の「カナダカップ」決勝でフォール勝ちしている相手だが、本人はそのことを忘れていたという。試合前に決勝への意気込みを聞かれると、「決勝も失点0にしたいが、あまり意識するとダメになってしまうので、確実に1点ずつ取れるようにしたいです」と謙虚に答えた。

 2008年北京五輪では51kg級が実施されないため、次の大会からは55kg級で出場することを決めている。この階級での試合はこの決勝戦が最後。そのため、「最後の51kg級での試合、思いっ切り自分のレスリングをしたいです」と、汗と涙のしみついた愛着ある階級を心置きなくやめられるように決勝に挑んだ。

 試合は相手に全くすきを与えないほど一方的に攻め続け、ここでも1ポイントも落とさず4−0、4−0と一方的な勝利。圧勝続きの内容で優勝を手にした。本人は「決勝は脚が動かないような気がしたけれど、失点0で終われたのは自分の中で自信になった」と振り返る。

 これで世界に敵はいなくなった。しかし敵は日本にいる。この10年間、国際大会で負けなし、この日もすぐ次の試合で金メダルを取った吉田沙保里だ。早ければ、来年の1月に東京・駒沢体育館で行われる天皇杯全日本選手権でその戦いが実現するだろう。2002年の12月に全日本選手権で負けて以来、5年ぶりのリベンジもかけて挑戦する。

 この日で51s級での試合が最後ということで、「これでオリンピックがあれば、このままオリンピックに行けるのに…、とたまに思います」と、名残惜しそうな面も覗かせる。しかし、「ないのが現実なので、そこは自分に対しての挑戦です」と気持ちを切り替え、、前を向く。「いろんな面で、まだまだ(吉田選手に)劣っているので、大会後はいろんな面において自分の今のレスリングをレベルアップさせることの3ヶ月間としたいです」と意気込んだ。

 来年の1月には今までいろんな面で悔しい思いをしてきた分、それを糧に体もレベルもひとまわりアップさせた坂本選手がそこにいるに違いない。

(取材・文=川崎真依、撮影=矢吹建夫)



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