【特集】最後の59kg級で100点満点の試合ができた…女子59kg級・正田絢子【2006年9月30日】






 女子59kg級の正田絢子(ジャパンビバレッジ)の決勝戦は、前日の48kg級に続いて究極の日中対決第2ステージだった。相手は地元・中国の蘇麗慧。伊調千春−任雪層と同じく、その日一番の盛り上がりで、完全アウェイの状況だった。

 そこで信頼する金浜良コーチ(ジャパンビバレッジ=
右写真の左)が最高の言葉で正田をマットへ送り出した。「この応援は全部がお前への声援だ」。アウェイの気持ちから一転、その言葉であらゆる声援すべてを力に代えることができた。

 正田の得意技は、絶妙なタイミングで入る飛行機投げ。その技で相手の体制を崩したあと、パワーレスリングで相手をねじ伏せるのが勝利の方程式だ。しかし、正田は昨年のチャンピオンで、得意技は十分に研究されていた。「飛行機投げには絶対入らせてもらえない」。そう思った正田は、第2ピリオドの勝負どころでタックルを敢行。相手の足を奪うと「絶対に離さない」と気持ちでテークダウンに持ち込み、勝利を決めた。

 「今日の初戦はぜんぜんダメだった」と振り返る正田。出だしの第1ピリオドでビッグポイントを奪われ、そのまま1ピリオドを失った。逆転勝利したものの「油断していた」とすぐに控え室で顔を洗い、気合を入れ直したそうだ。

 次の試合からはまるで別人。決勝まで相手に1ポイントも許さずに完勝した。その決勝戦は、「タックルに入れたし、100点満点の試合だった」と、59kg級での最後の試合を納得いく形で締めくくった。

 正田はもともと63kg級の選手。1999年に62kg級(当事の階級)で世界チャンピオンになるが、その後はけがもあって世界選手権のマットに立つことができなかった。04年アテネ五輪へ向けては、金メダリストを取ることになる伊調馨(中京女大)と最後まで代表の座を争った。

 世界トップレベルの力を持ちながら、国内でくすぶっていては駄目と、一時的に59kg級に階級を落として、世界への扉をこじ開けた。もちろんそれに伴うリスク、大減量もあったが、それを乗り越え、昨年は6年ぶりに世界チャンピオンに返り咲いた。

 2年後の北京五輪は、もちろん63kg級でチャレンジする。「いつかは倒さなくてはならない」と、優勝した喜びもつかの間、打倒・伊調馨に闘志を燃やした。

「まずは小さくなった体作りからはじめます」。北京への予行演習を終えた正田絢子が、伊調超えを目指して再出発を図る。

(取材・文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)


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