五輪3連覇達成のアレクサンダー・カレリン(ロシア)へ聞く【2006年10月4日】






 世界選手権の男子グレコローマンには、88年ソウル五輪から96年アトランタ五輪まで五輪3連覇を達成し、ほかに世界選手権9度優勝、約13年間、国内外で負けを知らなかったアレクサンダー・カレリン(ロシア=右写真)が観戦に訪れていた。

 現在はロシア協会の要職を離れているが、この世界選手権前にはロシアのグレコローマン・チームのゲオルギ・コクアシビリ・ヘッドコーチの要請で合宿に参加。120kg代表のハサン・バロエフらとスパーリングもやったそうで、選手育成への情熱は高い。世界選手権の2日目、観客席で試合を見ていたカレリンに聞いた。


 Q: 2分3ピリオド制、グラウンドの攻防の入った現在のレスリングのルールをどう思いますか?

 
カレリン 正直言って、いいルールだとは思わない。このルールにしなければならない理由があったのでしょうか。一般の人が試合を見ていて、勝敗や、なぜポイントが入ったのかよく分からないでしょう。これでは、お客さんを集めることが難しい。

 Q: レスリングは頻繁にルールが変わることで有名。アテネ五輪後にも、グレコローマンは2度、大きなルールの改正がありました。

 
カレリン ルールが頻繁に変わるのはよくない。これまで、ルールが1年ごとに、いや1か月ごとに変わってきたと言っても過言ではない。スポーツには、それぞれの伝統がある。その伝統を簡単に変えることには賛成できない。ひとつのルールを15年、20年と続け、不都合があったら、少しずつ時代に合わせたルールに変えていくべきだと思います。

 Q: レスリングに限らず、すべてのスポーツが、テレビ映りや放送時間などを意識してルールが変えられています。テレビが人気を獲得し、普及に役立つとの観点でルールを変えているようですが…。

 
カレリン このルールにしたからといって、観客動員につながっていますか。この会場の観客の少なさを見てください(左写真)。ルールを変えても、観客のアップにつながっていないではないですか。ルールを変えても、普及にはつながらないのです。レスリングを世間に浸透させるには、ルールを変えることではないのです。お客さんを集めるためのプロモーションの努力なのです。

 Q: レスリング界を変えていかなければならなと思っているのですね。

 
カレリン オリンピック種目として存続させることが必要です。さらに、レスリングのチャンピオンが多くの人から賞賛され、尊敬され、あこがれるような状況にしたいと思っています。そのために、一般の人が分かりやすいルールにし、人気を博していかなければなりません。一番必要なことはパブリケーション(広報)です。

 Q: 現在のレスリング界は、広報努力が足りない、と。

 
カレリン はっきり言えば、そうです。この大会の2週間後、ノボシビルスク(注・カレリンのホームタウン)でグレコローマンの大会を開催します。毎年開催している大会ですが、宣伝やショーアップに大きな力を使っており、毎年、大勢の観客が集まります。今年はFILA(国際レスリング連盟)の理事2人を招待し、私たちの広報努力を見せる予定です。

 Q: 現在、ロシア協会ではどんな仕事をやっているのでしょうか。

 
カレリン 地方の大会のプロモーションをする役職をやっています。

 Q: あなたほどの世界的なスーパースターなら、FILAの理事になり、将来は会長になって世界のレスリングの発展に尽力してほしいと思います。

 
カレリン (苦笑いして)いや、あそこの席(会場のFILA役員席)に座ると、煩雑なことが多すぎて、レスリングそのものに接する機会が少なくなってしまう。ここ(観客席)から見た方が、レスリングそのものを感じることができる。今の自由に動ける立場の方が、レスリングの発展に寄与できると思います。しばらく、この場所でレスリングの発展に尽力します。

 Q: では、反対であっても、今のルールで勝つために必要なことは何でしょうか。

 
カレリン いろんな技を練習する必要がありますが、特にリフトでしょう。ただ、強いレスラーはどんなルールででも勝ち抜いていくものです。ルールに合わせた勝つための努力をした選手が、最後は勝つでしょう。

 Q: 日本へ来て、日本選手を指導してほしい。

 
カレリン 日本のレスリングは伝統があり、チャンピオンも多い。とてもスピリットがありました。今は落ち込んでいますが、必ず上昇すると思います。どこかが招待してくれれば、行きたいと思います。逆に、ノボシビルスクに来て、私たちの大会を見て、私たちのレスリングの発展への思いを感じてほしいと思います。



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