【特集】世界3位より強い男・湯元健一「世界3位の自信を折ってやる!」【2006年10月18日】






 21歳、現役大学生の高塚紀行(日大3年)が、初出場ながら世界選手権銅メダル獲得の快挙を成し遂げ、男子レスリング界に明るい話題を呼んだ今年の秋。その高塚に、通算成績(7勝3敗)で上回り、世界選手権直前に行われた全日本学生選手(インカレ=8月)でも白星を挙げている選手がいる。

 日体大の湯元健一だ
(左写真)。“世界3位より強い男”と言って過言ではない。ライバル高塚の予想以上の活躍を、湯元はどのように感じていたのか―。

 湯元は昨年の世界選手権の代表。その後の天皇杯全日本選手権でも優勝し、同級のエースに成長した。世界選手権では、1回戦でアテネ五輪金メダリスト、ヤンドロ・クインタナ(キューバ)と当たってしまう不運もあり、結果は13位。その雪辱を果たすべく「今年は世界で成長する年。フリースタイル60kg級で一歩抜ける存在になりたい」と、視野を世界に広げていた。

 しかし6月の明治乳業杯全日本選抜選手権では、準決勝で03年世界選手権代表の太田亮介(警視庁)に敗れ、プレーオフでも相性のいい高塚に黒星を喫し、まさかの代表漏れ。世界への道は閉ざされてしまった。

 自分が出るはずだった世界選手権。湯元は「ニュースは特にチェックしていませんでした」と、アクセスが普段の10倍を記録したレスリング協会公式サイトもスルー。しかし、湯元自身が世界選手権から目をそむけても、周囲が放っておかない。高塚が銅メダルを獲得したことは、知人のメールで知ることになる。

 「高塚はベスト8くらいの結果だと思っていた」。高塚が世界の表彰台に立った事実を知ったとき、最初は驚いたそうだが、その次に沸いてきたのは、「先に自分がメダルを獲りたかった」という悔しい気持ちだった。

湯元健一VS高塚紀行の対戦成績(スコアは勝者から見た得点)
2002年 国民体育大会・少年 湯元健一 6−0=6:00 高塚紀行
2004年 JOC杯ジュニア選手権 湯元健一 3−2=6:00 高塚紀行
全日本学生選手権 湯元健一 判定(スコア不明) 高塚紀行
全日本大学選手権 湯元健一 3−1=6:00 高塚紀行
2005年 東日本学生リーグ戦 湯元健一 2−1(1-0,0-1,1-0) 高塚紀行
全日本選抜選手権 湯元健一 2−0(1-0,1-0) 高塚紀行
国民体育大会 湯元健一 2−1(0-2,1-0,4-0) 高塚紀行
全日本選手権 湯元健一 2−0(1-0,3-0) 高塚紀行
2006年 全日本選抜選手権 湯元健一 2−1(0-2,2-0,4-0) 高塚紀行
全日本学生選手権 湯元健一 2−1(内訳不明) 高塚紀行

 しかし、湯元には焦りはないようだ。「こっちも国体で優勝しましたし、目標は高塚越えじゃないんで焦りはないですね」。世界選手権とほぼ同時期に行われた兵庫国体で、1階級下とはいえ昨年の55kg級世界5位の松永共広(ALSOK綜合警備保障)をフォール勝ちで退けて初優勝を成し遂げた。

 双子の弟・進一(拓大)と同時優勝というおまけつき。「全国大会で兄弟優勝したのは初めて。両親も喜んでくれました」とうれしさ倍増の優勝。世界選手権には出られなくても、自分のペースで国内で着々と地盤を固めることができた。高塚の活躍も「日本の60kg級はメダルが獲れるレベル」というひとつの指標になり、逆に世界で戦える自信につながったようだ。

 インカレと国体で優勝した湯元の次の目標は、12月の全日本大学選手権で今年最後の試合を優勝で締めくくることだ。この大会で、今年3度目となる高塚VS湯元のカードが実現する可能性は高い。高塚にとっては、世界3位の肩書きを引っさげての凱旋試合となるが、「その世界3位の自信をポキッと折ってやりたいです」と闘志を燃やした。

 正直なところ、8月のインカレでの対戦では、お互いに攻めあぐねてクリンチ勝負となり、コイントスの優勢を生かした湯元が優勝するというすっきりしたものではなかった。マットサイドで試合を見守った日体大の藤本英男部長が「どっちも2位! あれじゃダメ!」とカツを入れたほど。

 「藤本先生からはバッチリ怒られましたよ(笑)。次はスッキリ勝ちますから。学年も高塚は1個下で、絶対に負けたくない存在です」と、全日本大学選手権でこそ、高塚から完全勝利を宣言した。

 世界代表のいない間に、双子で国体を制し、高塚とは違ったルートで成長し続ける湯元は、「“世界3位より強い男”っていう響き、いいッすね」と照れ笑い。本当に世界3位より強いのか。それを証明するためにも次の高塚戦は絶対に負けられない。

(文・撮影=増渕由気子)


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