【特集】挑戦とリベンジへの“試運転”に成功…坂本日登美・真喜子【2006年12月3日】






 挑戦とリベンジへ向けて、坂本日登美・真喜子(ともに自衛隊)の姉妹が、ニューヨークで実力を発揮。2007年の女子の日本代表争いに嵐を巻き起こしそうなムードをつくった。

 11月18日、米国ニューヨークで行われた「NYACホリデー国際オープン・トーナメント」。姉の日登美は55kg級へ挑み、強豪のティナ・ジョージ(米国)を含めた4選手を破って優勝。最高の試運転に成功した。妹の真喜子は1階級上の51kg級に出場し、やはり3試合を勝ち抜いて優勝。今年、伊調千春(ALSOK綜合警備保障)に奪われた48kg級日本代表の奪還へ向けて力強いスタートを切った。
(右写真:左端=坂本真喜子、右から2番目=坂本日登美、右端=惜しくも3位入賞を逃した55kg級・関根ゆう)


吉田沙保里が苦戦した相手に快勝…坂本日登美


 「ティナ・ジョージ(左写真)に8−0、4−0で勝って優勝」。USAレスリング協会ホームページに掲載されたNYAC大会の試合結果を聞いて日登美の優勝を知った中京女大の栄和人監督は、「ティナに8−0、4−0!?」と驚きの声を挙げた。ジョージは、今年の世界選手権ではベトナムの選手に敗れて初戦敗退しており、数年前より実力を落としている状況はある。

 しかし、02年と03年の世界選手権で、ともに決勝で吉田沙保里(現ALSOK綜合警備保障)の前に立ちはだかり、簡単に金メダルを取らせてくれなかった相手だ。昨年のワールドカップでの対戦では、吉田は第1ピリオドを1−4で取られ、第2ピリオドも3点を取られている(6−3で吉田の勝利)。このルールになってから吉田がピリオドを取られたのは、この1試合だけ。世界の55kg級を語るうえで、絶対にはずせない強豪である。

 そのジョージを、55kg級へ上げたばかりの日登美がテクニカルフォールを含めて2ピリオドとも快勝した。栄監督が驚きの声を挙げたのももっともだろう。

 「ジョージは、パワーは感じました。でも、強いとは思わなかったです。準決勝で闘ったミランダ(今年の世界選手権51kg級3位)の方が手ごわかったです」。日登美のこの言葉を聞けば、ジョージが力を落としており、結果だけで実力は判断できないことが分かるが、日登美は一方で「やはり自信にはなります。全日本選手権の前に、いい経験ができたと思います」と話す。

 いい経験とは、ジョージに勝ったことだけではない。「51kg級では、タックルにいって重いと感じたことはありませんでした。でも、今回は重いと感じました。この感覚をなくすことが必要です」。55kg級としての練習の指針がはっきりと見えてきたという感じで、ジョージを破った自信とともに、今後に向けて収穫の多くあった大会出場だった。

 現在の体重は55kgをやや超える程度。これまでは51kg級で世界一をキープする目標があっただけに、筋肉がつくようなトレーニングは控えてきた。これからはそうではない。「無理に大きくする必要はない。自然に」としながらも、パワーをアップさせる余地は十分にある。55kg級として最適の体格になった時、一段とその強さが増すだろう。

 思えば2001年9月、女子の五輪種目採用決定の朗報を聞きながら、51kg級は五輪で実施されないことが決まったあとの02年1月にひざの手術に踏み切り、ブランクのあとの同年12月、何の試運転をすることもなく1階級上に挑戦。吉田沙保里に完敗した。その失敗は繰り返さないという意気込みが感じられる世界選手権1ヶ月半後の大会出場。その目的は十分に達成されたようだ
(右写真=長島和幸、池松和彦ら男子のトップ選手とともに参加したNYAC国際オープン)

 ライバルの吉田沙保里は、ドーハで開幕したアジア大会に“日本の顔”として出場する。大会の期間中は目の前の敵に全力を尽くすだろうが、心の隅には、海を越えて試練を求め、結果を出した日登美の姿がちらついているに違いない。


あらためて伊調千春が目標…坂本真喜子


 姉・日登美と歩調を合わせてレスリングをやってきた妹の真喜子も、51kg級に出場し、見事に優勝した。ただし、日登美と違って1階級アップではなく、「減量のない状態で思い切って闘ってみたかった。自分の力を試したかった」と経験を積むための51kg級出場だった。もっとも、元51kg級の選手でパワーのある伊調千春対策もあったはずだ
(左写真:遠征中の11月20日、21回目の誕生日を迎えた坂本真喜子=左)

 決勝の相手は、51kg級で03年に世界3位になっているジェニー・ウォン(米国)。同年10月のワールドカップ51kg級で伊調千春を破っている選手だ。その意識はあまりなかったようだが、「名前を知っているウォンを倒し、成果はありました。第1ピリオドを落としても、動揺することもなかった」と、試合運びという点の収穫も口にする。

 今年9月、姉の応援と視察で中国・広州の世界選手権へ向かい
(右写真=姉の優勝を笑顔で迎え入れた坂本真喜子)、伊調の輝く姿を見ざるを得なかった。まして、昨年自らが2連敗した任層雪(中国)にフォール勝ちして優勝した伊調の姿だった。宿敵が目の前で強さを見せ、日の丸を上げるシーンを見るのは、決して気持ちのいいものではないだろう。

 しかし、真喜子は「あらためて千春さんだけが目標だと思いました」と、現実を前向きに受け止めるとともに、日本のレスリングの強さをあらためて痛感。この日本で練習し、日本代表を手にすれば、「絶対に世界一になれる」ことを確信したという。

 さらに、前年の日本代表もれから立ち上がって世界一に返り咲いた伊調千春の姿に刺激されるものがあったという。「自分も絶対にあきらめてはいけないことを学びました」というから、伊調は自らが勝つことでライバルにものすごいエネルギーを贈ったことになる。

 もちろん悔しさもエネルギーだ。「オリンピックの前にこの悔しい気持ちを経験できてよかった」という言葉は、「オリンピックではこの気持ちを味わない」という言葉の裏返し。「まず全日本選手権(1月26〜28日、東京・駒沢体育館)に照準を絞って頑張ります」。真喜子のリベンジ・ロードがスタートする。

(遠征写真提供=関根ゆう)



《iモード=前ページへ戻る》

《前ページへ戻る》