【特集】グレコローマン新世代を盛り上げろ! 鶴巻宰(国士大)【2006年12月7日】






 学生選手に活気が出てきた日本レスリング界。世界選手権で銅メダルを取ったフリースタイル(60kg級・高塚紀行)には及ばなくとも、グレコローマンでも生きのいい学生選手がベテランを追い上げており、現在の日本代表選手も北京五輪へ出場できる保障はない状況だ。

 そんな若手選手の中で、すでに日本代表として世界に飛び出ているのが74kg級の鶴巻宰(国士大=
右写真)。2004年の全日本選手権で、グレコローマンでは24年ぶりに20歳の全日本王者に輝き、翌年のアジア選手権(中国・武漢)に出場して銅メダルを獲得している。

 その後、日本一や日本代表から見放されてしまったが、05年世界選手権代表の岩崎裕樹(銀水荘)や今年の世界選手権代表の菅太一(警視庁)らと大きな差があるわけでないことは、衆目の一致するところ。10月の国体では1階級上の学生王者、斎川哲克(日体大)をも撃破する強さを見せ、確実に地力をつけている。

 見つめている目標は、すでに“世界”だ。今年の夏は、3年連続優勝のかかる全日本学生選手権への出場をせず、全日本チームの欧州遠征に参加した。「インカレにでるより、全日本のトップ選手とともに遠征し、試合に出た方が自分のためになると思いました。10月には全日本大学グレコローマン選手権がある。去年負けているだけに、こちらを絶対に勝ちたかった。そのためにも、夏に実力アップを目指したかった」。

 全日本学生選手権は2年連続で優勝していたものの、昨年の全日本大学グレコローマン選手権は、84kg級に出てフリースタイルの選手である磯川孝生(拓大)に負けていた。その悔しさを払しょくするためにも、全日本チームに混じって世界のレスリングを学び、一段上を目指したかったという。

 その成果は、斎川哲克を破る殊勲につながった
(左写真)。昨年負けた磯川と闘う機会はなかったが、斎川が磯川を破り、その斎川を破ったのだから、間接的にリベンジは果たした。斎川は10日前の国体で96kg級に出場し、同級学生王者の山口竜志(拓大)を破って優勝していた。3段論法でいくなら、鶴巻の実力は96kg級学生王者のそれより上ということになる。

 「いや〜、そんなわけありませんよ。相性ですよ」と笑うが、遠征では「特にグラウンドの攻撃と防御を学びました。どの選手も強いので、日本にいる時には経験できないことを学んだと思います」と十分な成果を感じている。学生間では96kg級王者級の実力があるといっても、決してオーバーな表現ではないだろう。

 ライバルであり、目標でもある岩崎裕樹や菅太一と大きく違う点は、これまでは、国士大の選手としてリーグ戦などフリースタイルの試合にも出なければならなかったこと。それが負けた言い訳にはならないだろうが、ライバルがとことんグレコローマンの練習を積んでいたのに対し、大きなハンディを背負って闘っていたことになる。

 逆に考えるなら、そうしたハンディを背負いながらも、04年の全日本選手権で勝って05年アジア選手権で3位に入賞できたというのは、鶴巻の非凡な才能の表れだろう。同年のユニバーシアードでも銅メダルを取り、今年はゴールデンGP予選でもあるニコラ・ペトロフ国際大会(ブルガリア)で銅メダルを取っており、グレコローマンにとことん打ち込ませれば、どんな大化けするか分からない資質を持っている。

 今月21〜22日の全日本大学選手権がフリースタイルの最後の試合。来春の卒業後は自衛隊へ進み、グレコローマンに専念する予定だ。自衛隊では、84年ロサンゼルス五輪金メダリストの宮原厚次監督と、全日本のコーチでもあり指導力に定評のある伊藤広道コーチがグレコローマン選手を指導している。鶴巻の成長度は、もっと急角度で上がっていくことが予想される
(右写真=全日本合宿で菅太一と練習する鶴巻)

 「国内で勝つとともに、国際大会3位の壁を乗り越えなければなりません。なぜか、その上へ行けない。スタミナが足りないのか…。準決勝あたりになると、意外に緊張したりもするんですよ」。まだ弱点は多い。だが、だからこそ明確な目標を定めて練習に打ち込める。長谷川恒平(55kg級=青山学院大)、北岡秀王(60kg級=日体大)、斎川哲克(84kg級=日体大)らとともに、グレコローマン新世代の旗頭としての活躍が期待される。


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