【特集】“ロシア選手”を一蹴して100連勝達成…女子55kg級・吉田沙保里【2006年12月13日】







 世界中で敵なしの快進撃を続ける55kg級の吉田沙保里が、順当にアジア大会を制覇。国際大会の連勝記録は「104連勝」へ伸び、2001年全日本選手権の3位決定戦から続いている国内外の連勝記録も「100連勝」の大台に伸ばした。

 決勝の相手は、アジア大会であるにもかかわらず、ロシアの選手が相手。アテネ五輪にロシア代表として出場したあと、カザフスタンに国籍を移し、北京五輪を狙うオルガ・スミルノバだ。吉田は「亡命」という言葉を使ったが、旧ソ連内では日本で住民票を他県に移すような感じで国籍を移すことができる。

 男子の世界でも、ロシアの代表になれない2番手、3番手の選手が他の国からオリンピック出場を目指して国籍を変える例はよくある。今後、女子でもこうしたケースが増えてくるだろう。

 だが吉田はこの“ロシア選手”を3−0、6−0のスコアで一蹴。「甘い考えでアジアに移住してくるな」と言わんばかりの強さで叩きつぶした。タックルに入られて相手の両腕が吉田の両脚をつかむことはあった。だが、吉田は腰をしっかり踏ん張ってそこでカット。その直後には攻撃に転じ、相手が防御の体勢を作る間もなく、その体がマットにはった。

 最後は片足を取ってからの豪快な3点タックル
(左写真)。世界中に敵なしの強さを存分に見せつけての圧勝優勝。「組んでからのレスリングができました」と、内容的にも満足のいった決勝。

 「世界中の選手から研究されている。どの選手もタックル返しを狙ってくる」。強ければ強いで課題が消えないのが勝負の世界。超高速タックルも、最近は返されてポイントを失うことが多くなっていた。

 「うかつには飛び込めない」。そんな気持ちが現れているようなアルカ・トマール(インド)との初戦だった。1分15秒をすぎても攻め込むことができず、「どうしたのかな?」という序盤だった。「巻き投げの強い選手。(今年の世界選手権で)正田絢子選手もやられている。手足が吸い付くやりづらい相手なんです」。

 世界にはいろんなタイプの選手がいる。無敵の吉田といえども、一戦一戦が厳しい闘いで、気は抜けない。それでも低い両足タックルで1点を取ってこのピリオドを奪うと、第2ピリオドは本来の動きへ戻って快勝。

 しかし準決勝、最大のライバルと目された蘇麗慧(中国)戦では、タックルをつぶされて1点を失うスタートとなってしまった。もっとも、ポイントを失ったあとの吉田の反撃力は定評がある。この1失点で闘志に火がつくと、8秒後にはタックルで1点を返し、終了間際には相手のタックルを返してフォールへ。レフェリーはマットをたたき、この段階で吉田は自分の勝ちと思って観客席にガッツポーズを見せた
(右写真)

 結局、時間の方が先となって第2ピリオドへと移ったが、吉田に“フォール”された蘇麗慧に闘う気持ちは残っておらず、さしたる攻撃のできないまま、吉田が本物の勝利を手にした。

 初戦でコンタクトレンズを落としてしまい、替えは選手村に置いてきていた。遠近感が取れないまま臨んだ準決勝だったという。それでも問題なく勝った吉田の強さに、報道陣からは「両目が見えなくても勝つことができるんじゃないか?」という声まで上がったほど。

 アトランタ五輪で、あのアレクサンダー・カレリン(ロシア)に負けたマット・ガファリ(米国)は「ゴリラにレスリングを教えなければ、勝てる選手はいない」と評した。いま、吉田と闘う選手は「目隠しでもさせなければ、吉田に勝てる選手はいない」と思っているかもしれない。

 「国内外100連勝を達成してホッとしました。これから、また国内の予選が始まります。国際大会、国内外の大会ともに連勝記録を続けていきたい」。目標はあくまでも北京オリンピックでの2連覇達成。闘いはまだ続く。


《iモード=前ページへ戻る》

《前ページへ戻る》