【特集】わずかのミスで勝利を逃す…男子フリースタイル60kg級・高塚紀行【2006年12月14日】







 世界選手権で銅メダルを獲得し、張り切ってアジア大会に臨んだ男子フリースタイル60kg級の高塚紀行(日大)に、神様は過酷な運命を用意していた。初戦の相手が4月のアジア選手権の王者のリ・ヨンチョル(北朝鮮)。そこに勝っても、世界王者のセイェド・ムラド・モハマディ(イラン)が待っているという組み合わせ。あたかも高塚の真の実力を試すかのように…。

 「負けたら次はないと思った。何が何でも勝たなければならなかった」。そんな意気込みも空回り。リ・ヨンチョルに試合終了10秒前で無念の黒星を喫し、そのリ・ヨンチョルがモハマディに敗れて決勝へ進めなかったため、1試合だけで大会を終えることになった。

 ピリオドスコア1−1の後の第3ピリオド、リ・ヨンチョルは明らかにばてていたが、ここ一番で踏ん張る力があり、ポイントは許さない。0−0でコイントス勝負かと思われたラスト10秒、高塚が足を滑らせたようにマットに倒れてしまう痛恨の1失点
(右写真)。押していただけに無念の黒星だった。

 第3ピリオドは「カウンターを警戒してしまい、思い切りが今ひとつ足りなかった。もっとプレッシャーをかけて、思い切って攻めなければならなかった」と振り返った。足が滑ったための失点なのか、崩された末の失点なのかは、「よく覚えていない」そうだが、「自分のちょっとしたミス。その差は順位の大きな差となってしまった」と、9位に終わった結果に無念そう。

 リ・ヨンチョルは昨年のアジア選手権でも2位の選手で、2年前のアジア選手権では小島豪臣が闘っている相手。スタミナに難のある選手とは聞いていたというが、「腕取りがうまく
(左写真)、それで相手のペースにはまってしまった」という。こうしたことは闘ってこそ分かるもの。北京オリンピックへ向けて、アジア内の標的になるであろう選手と闘えたということだけでも、出場しただけの価値はあっただろう。

 国内の60kg級は、アテネ五輪銅メダリストの井上謙二(自衛隊)の復帰と、55kg級からアップしてきた清水聖志人(クリナップ)の急成長で、近来まれに見る大激戦階級となっている。1月の天皇杯全日本選手権では、すべてがリセットされ、誰もが同じスタートラインから出発する状況だ。

 高塚も「井上さんは、きょうの相手と同じくらい強いと思います」と、今年の自分の活躍が、来年も簡単にできるとは思っていない。だが、世界選手権3位の実績とともに、今回の試練を経験したことは、わずかながらもアドバンテージとなることは間違いないだろう。いや、そうしなければ苦しんだことが無駄になってしまう。世界3位の選手の2007年に期待したい。


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