【特集】高校時代の無冠選手が大学選手権4連覇を達成…佐藤吏(早大)【2006年12月24日】






 昨年の男子フリースタイル66kg級の全日本チャンピオン、佐藤吏(つかさ=早大、右写真)が全日本大学選手権を4年連続で制した。同じ学生の大会でも、全日本学生選手権(インカレ)では7人が達成している快挙だが、年度の総決算となるこちらの大会での4連覇の方が難しいのか、本田多聞(1984年100kg級=日大)、赤石光生(1985年68kg級=日大)、小幡邦彦(2002年74kg級=山梨学院大)の3選手しか達成していない偉業。

 本田らが高校時代から逸材ぶりを発揮していたのに対し、佐藤の高校時代はインターハイ2位が最高で全国優勝がない。そんな選手の成し遂げた記録だけに、努力の跡が感じられる快挙だ。1年夏のインカレで優勝していれば、4年連続学生二冠王という、よりすごい偉業達成になったが、「高校時代に無冠でしたので、上出来だと思います」と言う。

 10月の兵庫国体で肩を負傷してしまい、練習は十分にできていなかった。「タックルに入るのが怖かった。不安の方が大きかった」と振り返る。1回戦の土田博之(国士大)戦が1−0、1−0での辛勝。2回戦の伐渡裕樹(近大)戦の第1ピリオドが1−1のラストポイントでの勝利と、今ひとつエンジンのかかりが悪かったのは、そんな不安の表れだったのか。

 3回戦の青山久志(東洋大)戦でも第2ピリオドを落とし、準決勝は2ピリオドとも0−0でクリンチの末の勝利。国体で不覚を喫した米満達弘(拓大)が3回戦で負傷のため棄権し対戦がなくなったことで、「ホッとすると同時に、かえってプレッシャーになった」とか。そして決勝は、さすがに記録を意識してしまい、「動きが硬かった」という。

 「これで優勝できるのかな?」という内容が続き、苦しんだ4連覇だった。それだけに「うれしいというより、ホッとしました」と言う。昨年の全日本選手権を制しながら、今年は明治乳業杯全日本選抜選手権の本戦とプレーオフで負けて世界選手権の代表を逃し、前述のように国体ででもつまずいた。学生最後の試合で有終の美を飾り、全日本選手権へつなげられたという安堵感が充満していた
(下写真は決勝)

 「年間を通じると50点。世界選手権に出られなかったことは悔しかった」。その世界選手権では、2月のデーブ・シュルツ国際大会(米国)で破ったビル・ザディク(米国)が優勝した。言葉には出さなかったが、「自分が出ていれば…」の思いもあるようだ。「来年こそは世界選手権に出たい」という気持ちは強い。

 この階級の日本代表の小島豪臣(周南システム産業)がアジア大会で銀メダルを取ったことも刺激されること。いますぐにでも世界に出て実力を試したいところだが、「国内で勝たなければ世界へ出られない」と、1月の全日本選手権を照準に「明日から練習を再開します」という。不安だった肩の負傷も、実戦ではほとんど影響がないことが分かり、今度は思い切った練習を積んで、1回戦から思い切った試合ができそうだ。

 来春の卒業後は、レスリングの“金メダル製造工場”となったALSOK綜合警備保障へ進み、レスリングに専念できる環境を得た。今月のアジア大会(カタール)では、入社内定の伊調馨選手を含め5選手中4選手が金メダルを獲得という快挙。こんな環境の中でだらしない試合をしたら、居場所がなくなる。

 「すごいところに行くんですよね」という苦笑いは決意の表れ。女子の活躍が目立つALSOKで、笹本睦(グレコローマン60kg級)に続く男子の意地を見せてくれることが期待される。まず全日本選手権が勝負だ。


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