【特集】グレコローマンの選手がフリースタイルで3連覇達成…長谷川恒平(青山学院大)【2006年12月25日】






 グレコローマン55kg級で学生三冠(05・06年全日本学生選手権、06年全日本大学グレコ選手権)を取っている長谷川恒平(青山学院大)が全日本大学選手権でも優勝。フリースタイルでも学生三冠(04〜06年同選手権)を獲得する快挙を達成した(右写真)

 高校(静岡・焼津中央)時代にはインターハイ優勝の経験もあったが、大学入学後の専門はグレコローマン。フリースタイルの練習時間はグレコローマンのそれに比べ圧倒的に少ない。それでも、大学でのフリースタイルの試合を振り返ると、03年東日本学生春季新人戦では55kg級を制覇したのをはじめ、東日本学生リーグ戦では03年=2勝2敗、04年=2勝3敗、05年=7戦全勝、06年=5勝1敗、全日本大学選手権は03年準優勝でその後3連覇という輝かしい戦績。「フリーの長谷川」は健在だった。

 今大会は3連覇がかかっていたが、グレコローマンの選手であるためか、「プレッシャーはなかった」という。それよりも、「5歳からフリーをやってきたので、今までやってきたことを全部出したかった。インターハイ王者だし前回王者だから、そう簡単には負けられない」と自分の中で意気込みがあった。

 決勝は今年の国体のグレコの覇者の長谷川とフリーの覇者の湯元進一(拓大)の顔合わせとなった。湯元とは高校時代は度々同じマットに上がっていたが、大学では対戦がなく、今回は実に5年ぶりの顔合わせ。「大学でも対戦したいと思っていた」。最後の最後でそれが実現し、「わくわくした」という。しかし、グレコローマンの試合の時のような緊張はなかった。

 第1ピリオドをクリンチでとったものの、第2ピリオドは接戦の末落とした。第3ピリオドも湯元の片足タックルがさえ、前半で2点を先制された。完全に湯元ペースと思われたが、長谷川はいたって冷静だった。攻め続けてきた相手の一本背負いをかわし、横捨て身で背中からマットへ落とし
(左写真=青が長谷川)、ニアフォールへ。残り30秒からの鮮やかな逆転劇だった。

 全試合を通して、長谷川はグレコローマンとフリースタイルの技を巧みに使い分けていた。片足タックルもローリングをきれいに決めたかと思えば、グレコローマンの動きを見せて相手の意表を突く…。落ち着いて試合を進め、結局は相手を自分のペースに引きずり込んだ。内容的にも文句なしだった。

 「2年生の時はまぐれで、昨年は(組み合わせの)くじ運がよかった」と昨年までの2連覇にはすっきりしていなかった。しかし湯元をはじめ冨田和秀(大東大)、藤元愼平(早大)と強敵を倒しての内容に、「今年は優勝を実感できる」と本人もご満悦だ。

 よくフリースタイルへの転向を勧められる長谷川だが、本人は「これが人生最後のフリースタイル」ときっぱり。すでにグレコローマンで勝つことだけに意識を向けている。「全日本選手権ではまだ表彰台に縁がない。まわり(他階級の同年代)に遅れをとっている」と危機感を募らせる。

 最近は全日本選手権で学生が上位争いに絡む階級が増えたが、グレコローマン55kg級は社会人選手が上位をほぼ独占している。まだ豊田雅俊(警視庁)や平井進悟(ALSOK綜合警備保障)との差があることは否めないが、表彰台にはたどり着きたいところだ
(右写真=今年6月の全日本選抜選手権で村上文清=自衛隊=に投げられる長谷川)

 1月26〜28日に行われる全日本選手権(東京・駒沢体育館)の時期までには大学の卒業論文提出もある。だが文武両道を貫く覚悟で、言い訳はできない。フリースタイル転向という周囲の声を、全日本選手権でのメダル獲得ではねのけられるか。最高の形でフリースタイルを卒業した今、「グレコローマンの長谷川」が再出発をきった。

(取材・文=神谷衣香)


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