【特集】1試合勝つごとについた自信。攻撃レスリング全開の高塚紀行




 ユニバーシアード予選は、フリー60kg級決勝で全日本チャンピオンの小島豪臣(日体大)が敗れる波乱が起きた。勝ったのは高校時代に 冠王に輝き、昨年、1年生で全日本大学選手権で優勝した高塚紀行(日大)。大阪・吹田市民教室〜茨城・霞ヶ浦高といういずれもレスリング界に空前絶後と思える金字塔を打ち立てた強豪チーム出身のエリート選手だ。

 “波乱”“番狂わせ”という表現は高塚に失礼かもしれない。全日本選手権での成績を見ると小島の方が上だが、両者のここまでの対戦成績は高塚が2勝1敗と勝ち越しており、それだけで判断するなら高塚に分があった決勝戦だったのだから。高塚も「自信はありました」ときっぱり。

            高塚紀行−小島豪臣の対戦成績

 2003年4月 JOC杯ジュニアオリンピック 高塚紀行○[2-2=9:00]●小島豪臣
 2004年5月 東日本学生リーグ戦     高塚紀行○[3−2]●小島豪臣
 2004年9月 全日本学生王座決定戦   小島豪臣○[4−3]●高塚紀行

 そうは言っても、全日本チャンピオン相手に受けて立つ気持ちにはなれず、「チャレンジャーとしてぶつかっていきました」と言う。その気持ちが、第2ピリオドの3点タックルなどに表れ、勝利を呼び込むことができたのだろう。

 この3点タックルは、小島もタックル返しを仕掛けており、ビデオ判定にもつれて審判団が何度もそのシーンをリプレイするなど微妙なシーン。小島に高塚のタックルを受け止めてから仕掛けたと思えるようなアクションもあり、小島にポイントが上がっても不思議ではないケースだった
(写真右=青の小島が高塚のタックルを返したようにも見える)。ここで小島が2点か3点を取って試合をひっくり返せば、勝負はどう転んだか分からない。

 だが高塚は言う。「攻撃してのことです。たとえ相手のポイントになっても、(心の)切り替えができたと思います」。攻撃したうえでの失点なら、負けても次につながる。“攻めて勝つ”という闘争心は十分。この気持ちをどんな時にでも持ち続けることが、今後の飛躍のかぎとなるだろう。

 昨年12月の全日本選手権では、新ルールになじめずに初戦でフォール負けの敗退。条件は誰もが同じだが、「ルールになじめなかった」という。しかし、今回の予選の初戦を勝つと、何となく戦い方が分かってきて、勝ち上がるにしたがって「自信が出てきた」。

 若い選手は、1試合勝つごとに多くのことを吸収し力をつけていくもの。本番のユニバーシアードまでに、東日本学生リーグ戦(5月12〜13日・19〜20日、東京・駒沢体育館)があり、JOCジュニアオリンピックで勝てば世界ジュニア選手権(7月5〜10日、リトアニア)もある。明治乳業杯全日本選抜選手権(6月22〜23日、東京・駒沢体育館)でも優勝候補の一人に躍り出たわけで、勝負をかける闘いが次々と待っている。そのすべてを血となり肉となる戦いにすることができれば、「今秋の世界選手権出場→好成績期待」という可能性も出てくる。

 ユニバーシアードで優勝を目標にしているのは言うまでもないが、「いつまでも『学生だから』とは言われたくない。上を目指します」と、世界選手権出場の気持ちも十分。練習での課題は組み手の強化と、グラウンドへ持ち込んで確実にポイントを追加できるようにすること。「守るレスリングじゃなく、攻め切って勝つレスリングです」と、ここでも口にしたのは“攻撃レスリング”だ。

 「アテネ五輪銅メダリスト(井上謙二)を破った小島を破ったのだから、五輪銅メダリスト並みの力があるということだね」という理論には、思わず噴き出し、「1回勝っただけではダメです」ときっぱり。そして「これからもずっと勝っていける選手になりたい」と言ったあと、「〜になる」と言い直し、希望ではなく意志を強調した。上を目指す気持ちは半端じゃない。
(写真左=赤が高塚、青が小島)

 アテネ五輪前は“穴”という厳しい声まであったフリースタイル60kg級。今は若い選手を中心に壮絶な闘いが展開され、世界で通じる階級としての期待が持てるように変わっている。今年、抜け出すのは高塚か、小島か、それとも捲土重来(けんどちょうらい=巻き返し)を期す井上謙二か。今年一年間の闘いに注目が集まる。



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