【特集】正真正銘の銅メダルだが、反省点も…グレコ60kg級・笹本睦


 予備戦 ○[2−1(2-ALast,4-2,8-0=0:55] IMAMOV BAKHODRI(ウズベキスタン)
 1回戦  ○[警告2P2:00(8-2=2:00,5-0)] XIE ZHEN(中国)
 準決勝 ●[0−2(1-3,1-4)] ALI ASHKANI(イラン)
 3決戦  ○[2−1(@last-1,1-@last, 2-1] KANG KYUNG IL(韓国)

 グレコローマンの二本柱の一人、60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)が、すったもんだの末に銅メダルを首からかけられた。3位決定戦の韓国戦は勝敗が二転三転した。まずマット上で手が上がったのは笹本。第3ピリオドを2−1のスコアで終わり、審判団は疑問もなく笹本の勝利を宣言した。

 ところが本部席にいた国際レスリング連盟(FILA)のラファエル・マルティニティー会長がグランドジュリー(審判長)のマリオ・サレトニグFILA副会長のもとに駆け寄り、警告をしっかりチェックするように命じた。

 笹本が試合終了4秒前に技術回避で1点を取られており、これが通算2度目の警告。そのままのスコアで試合が終わり、笹本が攻撃権のある30秒間にポイントを上げることができなかったため、これが3度目の警告となり、この段階で韓国の勝利へ。

 笹本は歓喜に沸く日本選手団のところへ傷心の思いで「自分の負けです」と伝えたが、プロテスト(書面抗議)が廃止された現在、1度下った勝敗を覆すことはできず、“笹本が誤審の末に銅メダル獲得”へ。笹本は納得のいかない表情ながら表彰台に昇った。

 しかし、韓国は第2ピリオドまでに2度の警告を受けていた(ともに30秒の攻撃権のところを無得点だったことによる)。第3ピリオド、先に攻撃権を得ながらポイントを取っておらず(防御側の笹本がカウンターで2点獲得)、この段階で3度目の警告を受けるべきだということが判明し、笹本が最後の30秒の攻撃をやる前に、笹本の警告勝ちだったことが分かった。結局、笹本の勝利で正しいことになり、笹本の首にかかった銅メダルは正真正銘の銅メダルとなった。

 銅メダルを手にした笹本は、勝つための手段だったとはいえ、技術回避を受けてしまった最後の試合を反省。結果的には本物の銅メダルになったものの、気持ちとしては今ひとつの様子。1回戦で右ろっ骨を負傷し、痛み止めの注射を打っての試合。わき腹を絞められたらこらえられず、自らの攻撃も満足にできない状況だったが、「けがは理由にならない。けがをしても勝たなければ」と厳しく自分を攻めた。

 笹本とともにリフトを得意とする松本は、このルール下でのリフトは思い通りに上がらないことが分かった。笹本は負傷のためにテストすらできなかったという感じ。そうでなくとも、「ルールがはっきりしないので…」と、対策の立てようがない一面も。

 どういったスタイルでスタートするか審判によってまちまち。パーテールポジションのサイドに立ち、足を相手の腕の上(肩の上)においていいのか、相手の脇の下にいれるのか、パーテールポジションをとる選手のおしりは、かかととくっつけていいのか、離さなければならないのか等、統一されていないのが現状。笹本ならずとも、どんな格好での攻防の練習をやればいいのか、戸惑うのももっともだろう。

 「ルールにもっと慣れたい」と話し、世界選手権の前、7、8月ころに欧州の大会に出場することもありうるという。ただ、「どんなルールでも勝たなければならない」とも。そのためには、1分間のスタンドの攻防で、「ポイントを取れればそれにこしたことはないが、そうでなくとも相手を動かしてバテさせることが必要」など、実戦を通じてこそ感じたこともある。世界選手権まできっちりと消化し、世界選手権でのメダル獲得を狙いたい。

(取材・文=樋口郁夫)




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