【特集】茨城県女子2選手が快挙。故沼尻直会長へ最高の供養




 全国中学生選手権最終日の朝、韓国・済州島で行なわれているアジア・ジュニア選手権で、地元茨城出身の大沢茂樹選手(茨城・牛久南中時代にこの大会二連覇、以後、霞ヶ浦高〜山梨学院大)が優勝というニュースが伝えられ、審判として参加していた霞ヶ浦高の大沢友博監督へ多くの祝福の声がかかった。

 その会場で、茨城県の選手が続けざまに快挙を達成。沼尻直会長没後の初めての大会にして、故人へ最高の供養を捧げた。

 最初に快挙を達成したのは、女子37kg級の阿部千波(茨城・水戸二1年=
写真右)。昨年7月の全国少年選手権で4連覇を達成し、日本協会認定の年間MVPにも選出された選手。ことし3月のジャパンビバレッジ杯ジャパンクイーンズカップでもスクールガールの部で優勝し、“第2の吉田沙保里”との呼び声もある選手だ。

 中学に進んでの最初の全国大会となったこの大会。準決勝までの3試合を1ポイントも失わない快勝で勝ち上がった。しかし決勝は苦しい試合だった。第1ピリオドを0−0で終わり、コイントスで負けて防御へ。必死になってこらえたものの、まだカウンターで攻撃できるかな、と思われた体勢で相手に2ポイントが入ってしまって落としてしまった。

 まだ幼さの残る12歳の口から出てきた言葉は、判定に対する不満ではなく、「あれで、2、3ピリオドは絶対に勝つんだ、という気持ちになりました」という前向きな言葉。第2、3ピリオドとも1ポイントという最小得点を守り抜き、栄冠を手にした。苦しい試合だっただけに、「うれしいです」という言葉で優勝を振り返った。

 中学生の年代では、1年違っただけでも体力は大きく違う。今回は幸運にも3年生との対戦はなかったが、2年生と2試合を戦った。「力があります。自分も力をつけていかないとダメだと思います」という感想を持ち、「弱点と思われるところを直していかないと勝ち続けられないと思います」と気を引き締める。

 しかし、自覚している弱点を問われると、首をひねったきり、言葉が出てこない。現段階としては“パーフェクト”のレスリングをしているのだろう。このまま順調に実力をつけていけば、3連覇は十分に可能だ。

 その3連覇を実現したのが、開会式で選手宣誓の大役を務めた佐藤文香(茨城・水戸四3年=
写真左)で、女子では3人目の快挙。初戦から2ピリオド0分38秒、1ピリオド0分23秒、1ピリオド0分46秒でそれぞれフォール勝ちという圧勝続き。「うれしいです。自信ありました。第1試合でてこずりましたが、内容的にも満足です」ときっぱり話し、その自信の源を問われると、「いつもの練習の成果です。絶対に勝てると思っていました」と言う。

 今後の飛躍も期待されるが、ジャパンビバレッジ杯ジャパンクイーンズカップ・カデットの部では、中京女大附高の選手相手に初戦敗退しており、V3の選手といえども、一段上ですんなりと勝てるほど甘くはないだろう。「スピードをつけたい。タックルをもっとうまくなりたい」と課題を挙げ、練習に励んでいく腹積もりだ。

 阿部、佐藤ともに将来の目標は「オリンピック選手になること」。昨夏のアテネ五輪での女子選手の活躍が、上を目指す大きな動機づけになっているようで、日本の女子レスリングは最高の形で回転していると言っていい。

 1999年に、大学、高校に先んじて女子を採用した故沼尻直会長。未来のオリンピック選手が大きな目標をもってファイトしている姿を、天国から微笑んで見守っていることだろう。

(取材・文=樋口郁夫、撮影=矢吹建夫)


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