【特集】貫録十分のV6! レスリング一家の長兄、阿部宏隆…全国少年少女選手権




 五輪金メダリストの吉田沙保里選手を(現ALSOK綜合警備保障=一志ジュニア教室出身)生んだ三重県で開催された第22回全国少年少女レスリング選手権大会。全国から138クラブ、1197名の少年少女レスラーが集い、連日にわたり熱戦が繰り広げられた。

 カメラやビデオカメラを片手に構えた親たちからの「そこで下がるな!」「攻めろ、攻めろ!」などといった声援に後押しされて少年選手たちはマットに立つ。思うようにいかなかったり、悔しかったり、泣きながら試合をする子どもたちも多くいる中で、貫禄十分といった雰囲気をかもし出しながら試合に臨んだ少年王者がいる。小学校6年間にわたり負け知らず。小学生の部・6年28s級で無敵を誇る阿部宏隆選手(茨城・水戸市レスリングスポーツ少年団)だ。

 身長は130cmと小柄だが、構えから他の選手と違う。1人だけ大人の選手が入ってしまったのかと錯覚するほどの力の差を見せつけ、危なげなく準決勝まですべて1Rフォール勝ちで勝ち進む。タックルに入るスピード、力強さ、次々と技を繰り出す器用さとうまさも備える。

 阿部選手の活躍を写真に撮ろうと構える大人たちが、「もうスピードについていけないし、すぐ(試合が)終わっちゃうから撮れないよ〜」と嘆くほど、まさにこの階級では“無敵”の王者なのである。

 準決勝、決勝を行う最終日も阿部選手はその力を存分に見せつけた。準決勝では開始早々にタックルで相手の体制を崩し、アンクルホールドをかけたかと思えば、あっという間に押さえ込んでフォール勝ち。30秒もかからずに決勝進出を決めた。決勝でもやはりその強さは圧巻そのもの。準決勝と同様に、素早い両足タックルからたたみかかけるような連続技で、やはり決勝も秒殺といえるほどの完勝。

 右手を掲げられ、見事に6連覇を達成すると、両手を高く突き上げガッツポーズで喜びを表現。そのあと、アテネ五輪での吉田沙保里選手を彷彿(ほうふつ)させるようなバック宙を披露。「勝ったらやろうと決めていた」と余裕のひと言。終わってみればすべての試合が1Rフォール勝ちという、見事なまでの強さを見せつけての6連覇達成だった。

 指導にあたるのは、水戸市スポーツ少年団監督でもあり阿部選手の父親でもある阿部敏明さん。愛息の強さを「スピード、反射神経、腕力、すべてにおいて他の選手を勝っていた」と評し、「これからは身体をつくって、もっと強い選手に育てたい」と目を細める。

 長女の千波さんも今年6月に行なわれた全国中学生選手権のチャンピオンであり、この大会の小学1年の部20s級に出場した次男・敏弥くんも優勝を飾った。今年は3姉弟とも現役の全国チャンピオンというまさにレスリング一家だ。

 長男・次男とも性格は勝ち気で負けず嫌い。日々の練習では「疲れていても納得するまでは終わらない」(敏明さん談)と、時には5時間を越えることもあるそうだ。6連覇達成という偉業も「クラブのみんなが支えあってできたこと。今日負けた選手も、一生懸命応援してくれたから宏隆も敏弥も勝つことができた。これからもクラブ全体の力を上げていけるよう努めたい」とみんなの力で達成した6連覇であったと振り返る。

 自身の優勝を圧勝で決め、決勝戦に臨む弟のスパーリングパートナーを務めていた宏隆選手。なにやら厳しい表情で弟にひと言ふた言アドバイスをしている。チャンピオンとしての極意伝授か? と思い、聞いてみると「あいつ、言うこと聞かないんだもん。だから叱ってたんです」。さすが、お兄ちゃんというひと幕か。

 これからの目標を「もっと強くなって中学校でも全国チャンピオンになりたい」と語り、さらには「オリンピックに出て勝ちたい!」と力強く語る宏隆選手。目標とする選手は「タックルの速さとうまさがすごいから吉田沙保里選手」と息子は言い、父・敏明さんは「富山英明さん(ロサンゼルス五輪金メダリスト=現日本協会強化委員長)のような速さを武器に、強さも持った選手になってほしい」と語る。

 2人の金メダリストのように速さと強さを備え、阿部選手が金メダリストの仲間入りを目指す日もそう遠くなさそうだ。

(取材・文・撮影=田中夕子)


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