【特集】世界選手権へかける(4)…女子51kg級・坂本日登美





 過去との決別。

 女子51kg級の坂本日登美(自衛隊)には、世界女子レスリング史に残る素晴らしい栄光の記録があった。

 1966年世界フリースタイル選手権フライ級銀メダリストの勝村靖夫氏のもと、青森・八戸キッズでレスリングを始め、1998年に全国高校選手権で優勝。中京女大に進み、現日本協会女子ヘッドコーチの栄和人監督のもと、99年全日本選手権51kg級で初出場初優勝を果たすと、翌00年、そのまま一気に世界の頂点に登り詰めた。

 そして、01年世界選手権で2連覇を達成。その直前、アテネ・オリンピックでの女子レスリング採用は決まっていた。階級など詳細は未定だったが、早くも「日本の坂本日登美の金メダルは間違いない」と言われた。

 まさに、精密機械。今回の世界選手権でも特別コーチを務めるアニマル浜口氏は、「10年経っても、京子に日登美ちゃんのレスリングはできない。いや、真似しようとしたら京子はおかしくなりますよ」と、日登美のレスリングを絶賛していた。日登美は00年の国際レスリング連盟(FILA)の「年間ベストレスラー」に選ばれている。

 両ヒザのケガ、精神的な葛藤(かっとう)…。さまざまな問題を乗り越え、04年夏に復帰した日登美に、「世界選手権V2した頃と比べ、今は何パーセトぐらい戻りましたか」との質問が浴びせられ、彼女も素直に答えていた。

 だが、「あの頃に戻ったぐらいでは勝てない」。そう思い知らされたのは、同郷で生涯のライバル、伊調千春(中京女大)だった。日登美がマットから離れている間に、千春はオリンピックを経験し、48kg級で銀メダルに輝いていた。

 「千春は出場していませんでしたが(04年12月の)全日本選手権で優勝し、ヤリギン国際大会でも負けなかった。“いけるかな”なんて思っていましたが、(翌年)3月のクイーンズカップで千春にバランバランにされ、初めて気づきました。これまでの自分のレスリングではもう勝てないと」

 埼玉・和光クラブに入り、自衛隊に入隊した。藤川健治・女子監督は一切妥協しない。過去の栄光など、全く認めなかった。「何が世界V2だ。まだまだ覚えることがいっぱいあるだろう」という監督のもと、生まれ変わった日登美は6月の世界選手権代表決定プレーオフで千春を破り、4年ぶりとなる世界選手権出場権を獲得した。

 「ルールだって、変わったんですからね。過去のことは過去。新しいスタートです」  坂本日登美の『天才女子レスラー物語』第2章は、完全復活を果たすハンガリー・ブタペストから始まる。

(取材・文=宮崎俊哉)


 ◎女子51kg級展望

※出場選手が判明した場合は差し替えます。

 
《ウクライナ》アテネ五輪48kg級の金メダリストで、同級の世界選手権を3度制しているイリナ・メルニク(写真左)が51kg級へアップし、欧州選手権とユニバーシアードで優勝した。2月のキエフ国際大会は48kg級で勝っているので、48kg級への出場も予想されるが、2つのビッグ大会を制したことで51kg級での世界一挑戦の可能性の方が高いだろう。

 
《米国》2001年世界選手権で坂本日登美と決勝を戦ったステファニー・ムラタが代表。坂本は昨秋のワールドカップ、今年1月のヤリギン国際大会でも勝っており、通算3戦無敗。

 
《ロシア》ナタリア・スミルノバが欧州選手権とワールドカップで2位に入っており、世界選手権への出場も有力視される。

 
《カナダ》1999年世界選手権51kg級で山本聖子と決勝を争ったエリカ・シャープが代表。3月のミロン・トロフィー大会、6月のオーストリア女子国際大会、8月のポーランド女子国際大会と優勝を重ねており、調子を上げている。

 
《ドイツ》2002年48kg級世界チャンピオンのブリジット・ワグナー(写真右)が今年は51kg級で戦っている。1月のヤリギン国際大会では坂本日登美に敗れて3位だが、翌3月のショーブ女子国際大会で優勝するなど力はある。

 
《フランス》2001年世界ジュニア選手権54kg級優勝のバネッサ・ボブレムが3月のクリッパン国際大会で優勝し、欧州選手権3位、ワールドカップ3位、地中海大会で優勝と力をつけている。
 


 ◎坂本日登美の最近の主な国際大会成績

 【2004年カナダカップ】=優勝(8選手出場)

1回戦  ○[F] Condello, Keritin(米国)
準決勝 ○[TF1-0] Peng, Audrey(カナダ)
決  勝 ○[F] Belisle, Lyndsay(カナダ)

 【2004年ワールドカップ】=
優勝(7選手出場)

2回戦 ○[7−1] Stephanie Murata(米国)
3回戦 ○[F0:42=3-0] Neha Rathi(インド)
4回戦 ○[F1:44=7-0] Ekaterina Savelova(ロシア)
5回戦 ○[F0:35=4-0] Tan Dongmei=譚東妹(中国)

 【2005年ヤリギン国際大会】=
優勝(12選手出場)

1回戦  ○[F2P1:39] Murata Stephanie(米国)
2回戦  ○[F3P1:43] Bubriem Vanessa(フランス)
準決勝 ○[2−0] Wagner Brigitte(ドイツ)
決  勝 ○[F] Yura Gandolgor(モンゴル)

 【2005年アジア選手権】=
優勝(11選手出場)

予備戦 ○[F1P1:15(7-0)] Liu Rui(中国) 
1回戦  ○[F2P0:36(TF7-0=1:49,4-0=0:36)] Park Ji Young(韓国)
準決勝 ○[2−0(5-0,4-3)] Enkhjargal Tsogtbazar(モンゴル)
決  勝 ○[2−0(TF6-0=1:04,TF7-1=1:50)] Mirzaeva Dinaka(ウズベキスタン)




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