【特集】世界選手権へかける(5)…男子フリー74kg級・小幡邦彦




 旧ソ連が解体されたことの影響なのか、ビデオの発達によるものか、あるいはルールのせいか、理由を断定することはできないが、最近の男子のレスリング界はどの階級も群雄割拠の戦国時代。かつてのセルゲイ・ベログラゾフ(ソ連=五輪2度を含めて世界を8度制覇)、アルセン・ファザエフ(ソ連=五輪2度を含めて世界を8度制覇)、ジョン・スミス(米国=五輪2度を含めて世界を6度制覇)といった抜群の強さを持ったチャンピオンが少なくなった。

 現在の数少ない、いや唯一の“抜群の強さを持ったチャンピオン”が、フリースタイル74kg級のブバイサ・サイキエフ(ロシア)だ。シドニー五輪こそ優勝したブランドン・スレイ(米国)に延長で敗れてとりこぼしたが、2度の五輪(96年アトランタ五輪、04年アテネ五輪)を含めて世界を7度制覇。欧州選手権も、出場した5度すべてに優勝。アレクサンダー・カレリン(ロシア)の引退したあと、ただ1人残った“絶対王者”と言える。

 そのサイキエフを目標に、世界選手権へ出場し続けているのが小幡邦彦(ALSOK綜合警備保障)だ。最初に対戦したのが2001年7月のヤリギン国際大会(ロシア)。小幡は、手の内を知られていない利があったのか、この“絶対王者”相手に2−7と、ポイントを取るなど善戦した。しかし4か月後の世界選手権(小幡にとって初出場)では0−7で完敗
(写真右=赤が小幡)。この段階での実力差は明白だった。

 サイキエフは昨夏、アテネ五輪で勝って相変わらずの強さを見せた。今年に入って活動をしておらず、30歳という年齢からして、しばらく休養かと思われたが、8月のジオルコウスキ国際大会(ポーランド)に出場して優勝。ことしの世界選手権出場が確実となった。小幡はその大会でサイキエフのファイトを目の当たりにし、「戦いたい」という気持ちが沸きあがってきたという。

 結果として小幡が準決勝で敗れてしまい、対戦することはなかったが、「自分の力がどこまで通用するようになったか試してみたかった」。こうした気持ちになること自体、気持ちがかなり乗っている証拠。「からみあったら抜群の強さで、一気にポイントを取ってくる。戦うとなったら、あまり組み合わず、スピードで勝負しようと思う」と、研究も十分にしている。

 世界大会での順位を24位(02年世界選手権)、10位(03年世界選手権)、12位(アテネ五輪)と上げていて、間違いなく実力をアップさせている小幡。ことしは、アジア選手権こそメダル獲得を逃したが、3月のダン・コロフ国際大会(ブルガリア)では、欧州チャンピオンに輝くことになる元69kg級世界王者のニコライ・パスラー(ブルガリア)と大善戦。地元びいきと思われる判定で敗れたものの、実力は欧州王者と比べても遜色はないことを証明した。

 サイキエフ以外、横一線ともいえる階級だ。小幡が「決勝に残れるチャンスは十分にある」と言うのは、単なる願望ではなく根拠のある決意。体力十分の初戦でサイキエフと戦ってみたいという気持ちもあり、いずれにせよ、この4年間の成長を“絶対王者”を相手に試してみたい気持ちでいっぱいだ。「勝つつもりで闘いますよ」ときっぱり。

 大きな目標のできた世界選手権。「新しい技が今から身につくものではない。自分の技の精度を上げるようにします。2分間、気を抜かないで100%の力を出せる力をしっかりつけ、仕上げたい」と最後の調整に余念がない。


 ◎男子フリー74kg級展望

※出場選手が判明した場合は差し替えます。

 
《ロシア》ブバイサ・サイキエフ(写真左)が圧倒的な強さ(本文参照)。95・97・98・01・03年に続いて6度目の世界選手権優勝を狙ってくるだろう。

 
《カザフスタン》シドニー五輪4位、アテネ五輪2位のゲンナディ・ラリエフが出てくるか? 小幡は2002年アジア大会で3−1で勝っている。

 
《中国》アジア選手権で優勝したシ・リグレング(棋日古楞)が急成長している。03年世界選手権は15位で、アテネ五輪予選を勝ち抜けなかった選手だが、その頃の実力と思ったら、しっぺ返しをくらうだろう。

 
《米国》ワールドカップ4度優勝のジョー・ウィリアムズが代表。アテネ五輪は5位。今年は1月のヤリギン国際大会で優勝したが、ワールドカップは3位。巻き返しなるか。

 
《キューバ》アテネ五輪3位のイワン・フンドラ・ザルディバールが、今年3月のワールドカップと4月のパンアメリカン選手権で優勝したが、5月のアリ・アリエフ国際大会3位、6月のウマハノフ国際大会2位と圧倒的な強さはない。小幡はアテネ五輪で敗れたリベンジをしたいところ。

 《ブルガリア》2001年の69kg級世界チャンピオンのニコライ・パスラー(写真右)が、ことしの欧州選手権で優勝。7月のベログラゾフ国際大会では2位。身長の低い選手だが(160cm)、実力は十分。

 
《その他》シドニー五輪69kg級王者のダニエル・イガリ(カナダ)は不出場。代わって出るカナダの選手はそれほどの実績はない。アジア選手権2位のソスラン・テギエフ(ウズベキスタン)、アジア選手権3位でユニバーシアード優勝のハディ・ハビビ(イラン)、アテネ五輪4位でユニバーシアード2位のクリスチアン・ブルゾゾウスキ(ポーランド)あたりが要注意か。


 ◎小幡邦彦の最近の主な国際大会成績

 【2003年デーブ・シュルツ記念国際大会】=
6位(17選手出場)

予選1回戦  ○[6−2] Yoshady Sanchez(キューバ)
予選2回戦    BYE
予選3回戦  ●[1-3=6:06] Josh Koscheck(米国)
決勝T1回戦 ●[3−6] Donny Pritzlaff(米国)

 【2003年ベログラゾフ国際大会】

予選1回戦 ●[3−4] Ivon Diaconu(モルドバ)
予選2回戦 ○[6−4] Abel Diamadydin(ロシア)
予選3回戦   BYE

 【2003年世界選手権】=
10位(35選手出場)

予選1回戦 ○[Tフォール、5:09=14-3] Hakki Ceylan(トルコ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[3−0] Eugen Preda(ルーマニア)
決勝T1回戦 ●[1-3=7:50] Murad Caidarov(ベラルーシ)

 【2004年ヤシャドク国際大会】(25選手出場)

予選1回戦 ●[1−4] Fahrettin Oezataトルコ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[10−1] Byung Kwan-Cho(韓国)

 【2004年アジア選手権】=
3位(8選手)

予選1回戦 ●[1−3] M. Sadeqnejad(イラン)
予選2回戦 ○[途中棄権、9-0] Jung Dee Yee(韓国)
予選3回戦 ○[フォール、0:18=3-0] Liu Wei(台湾)
3位決定戦 ○[Tフォール、4:38=12-2] S. Osmanov(カザフスタン)

 【2004年マケドニア・パール国際大会】=
優勝(9選手)

予選1回戦 ○[F0:55=8-0] Milan Todorovic(セルビアモンテネグロ)
予選2回戦 ○[F1:32=13-2] Miloc Vojanovic(クロアチア)
予選3回戦 ○[3−2] Kiril Terziev(ブルガリア)
決     勝 ○[F5:10=8-0] Kemeridis Theoharis(ギリシャ)

 【2004年ドイツグランプリ】=
2位(16選手出場)

予選1回戦 ○[5−0] Stephen Kraft(ドイツ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[TF2:59=10-0] Dominik Zeh(ドイツ)
準 決 勝  ○[3−0] Dennis Blum(ドイツ)
決    勝  ●[2−5] Krystian Brzozowski (ポーランド)

 【2004年アテネ五輪】=
12位(21選手出場)

予選1回戦 ○[8−0] Sujeet Mann(インド)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ●[0−8] Ivan Fundora(キューバ)

 【2005年ヤシャドク国際大会】=
10位(21選手出場)

2回戦 ○[2−0(0-1,1-0,4-3)] Kiril Terziev(ブルガリア)
3回戦 ●[0−2(0-1,0-1)] Mohammadi Mocid(イラン)

 【2005年ダン・コロフ国際大会】=
3位(14選手出場)

1  回  戦 ○[2−1(1-0,1-3,5-1)] 高橋龍太(日本)
2  回  戦 ○[2−0(1-0,1-0)] Benali Rachid(フランス)
準 決  勝 ●[1−2(0-1,1-0=2:15,0-1=2:14)] Nilolay Paslar(ブルガリア)
3位決定戦 ○[2−1(2-1,0-1,1-1)] David Akhalmosulishivili(グルジア)

 【2005年アジア選手権】=
7位(14選手出場)

予備戦 ○[2−0(1-0=2:17,1-0)] J.TALANTBEK(キルギスタン)
1回戦  ●[0−2(1-@last,1-2)] CHO YONG PIL(韓国)

 【2005年ジオルコウスキ国際大会】=
3位(16選手出場)

1 回 戦  ○[2−0(1-0=2:11,1-0)] Lukasz Wiechna(ポーランド)
2 回 戦  ○[2−0(1-0,1-0)] Szymon Piatkowski(ポーランド)
準 決 勝 ●[0−2(0-3,0-1)] Oleg Bilotserkivsky(ウクライナ)
3位決定戦 ○[2−0(5-0,1-0)] Carlos Dominguez(スペイン)




《前ページに戻る》