【特集】世界選手権へかける(9)…女子48kg級・坂本真喜子





 「“19”の決断を、私は決して無駄にさせない」

 女子48kg級の坂本真喜子は今年3月、中京女大を中退。埼玉・和光クラブ所属となった。藤川健治・自衛隊体育学レスリング班女子監督は、話がその時の経緯(いきさつ)になると、こぼれそうになる涙を必死にこらえるかのように、右手を腿の上で固く握りながらそう語った。

 大学卒業という学歴を捨てた。自衛隊に入隊するにしても、高卒と大卒では“扱い”が異なることは分かっていたが。8月、トルコ・ イズミールで行われたユニバーシアードでの栄光も求めなかった。真喜子が出場していたら金メダルは間違いなかっただろう。

 それでも、中京女大をやめた。姉・日登美(51kg級=自衛隊)とともに戦っていく道を選んだ。姉が全幅の信頼をおく藤川監督のもとで、練習していこう決心した。

 栄和人監督率いる愛知・中京女子大附高に進んで2年後、真喜子は2002年世界選手権代表の野口美香、世界選手権5度優勝を誇るベテラン吉村祥子、元祖レスリングアイドルにして世界選手権3度優勝の実績を引きさげて復帰した山本美憂を次々と撃破。2002年全日本選手権を初制覇した。

 17歳。「スーパー高校生」と呼ばれた。03年9月、ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)で開催された世界選手権では、のちにアテネ・オリンピック金メダリストに輝くことになるイリナ・メルニク(ウクライナ)に敗れ5位に終わったものの、オリンピック出場権を獲得した。

 そして付属高校から中京女大へ進学してまもなく、先輩・伊調千春とのオリンピック代表争いを演じたが、惜しくも、ほんの僅差で敗れ、アテネへの道を絶たれた。

 その時から心の底のどこかに、本人は無意識だったかもしれないが、「このままではダメだ」と考えていたに違いない。そして、その思いが今年1月、ともに戦い、姉妹同時優勝を果たしたヤリギン国際大会(ロシア)後、一気に爆発したのだろう。全ては、08年北京オリンピックのために。

 アテネ・オリンピックで金メダル2個を含め、全階級でメダルを獲得した日本女子チームへの包囲網はさらに厳しくなる。だが、それでも負けるわけにはいかない。ゴールドラッシュへの扉がどんなにきつく閉ざされていようが、坂本真喜子がこじ開ける。

(取材・文=宮崎俊哉)


 ◎女子48kg級展望

※出場選手が判明した場合は差し替えます。

 
アテネ五輪金メダリストのイリナ・メルニク(ウクライナ)は51kg級へ出場する可能性が高く、銀メダリストの伊調千春は不出場、銅メダリストのパトリシア・ミランダ(米国)は引退。オリンピックの上位3選手が出場しない本命不在の階級となった。

 
《中国》01年ワールドカップ51kg級3位だったレン・シュチェン(写真左)が48kg級へ落とし、5月のアジア選手権で坂本真喜子を破って優勝した。世界選手権でも力を発揮するか。

 
《ロシア》03年世界チャンピオンでアテネ五輪5位のラリッサ・オーザクが、5月の欧州選手権、7月の世界ジュニア選手権、8月の欧州ジュニア選手権と優勝し、優勝づいている。1月のヤリギン国際大会で坂本真喜子に敗れているので、リベンジを狙ってくるだろう。

 
《ウクライナ》5月のワールドカップに出場したアレクサンドラ・コハトが、その後、7月の世界ジュニア選手権で優勝し、8月のユニバーシアードで3位に入っている。どのくらい成長しているか。

 
《米国》03年51kg級世界3位のジェニー・ウォンが階級を落として出場してくる。新たな階級でどんな闘いを見せるか。

 
《カナダ》常連のキャロル・ヒュンが2月のデーブ・シュルツ国際大会、3月のクリッパン国際大会、8月のユニバーシアードでいずれも優勝と好調。


 ◎坂本真喜子の最近の主な国際大会成績

 【2003年世界選手権】=
5位(29選手出場)

予選1回戦 ○[3-0=6:03] Mayerli Karipa(ベネズエラ)
予選2回戦 ○[5−0] Nicoleta Badea(ルーマニア)
予選3回戦 ○[6−5] Lidiya Karamchakova(タジギスタン)
準々決勝  ●[2−5] Irina Melnik(ウクライナ)

 【2003年ワールドカップ】=
5位(9選手出場)

リーグ3回戦 ●[フォール1:21=4-0] Dobner Sigrun(ドイツ)
リーグ4回戦 ○[4−5] Yang Zuying(中国)
リーグ5回戦 ○[7−0] Kaskarakova Liliya(ロシア)
リーグ7回戦 ●[3−4] Miranda Patricia(米国)

 【2004年ワールドカップ】=
5位(7選手出場)

リーグ2回戦 ○[フォール0:46=4-0] Clarissa Chun(米国)
リーグ3回戦 ○[フォール1:12=6-0] Anna Trusova(ロシア)

 【2005年ヤリギン国際大会】=
優勝(13選手出場)

予備戦 ○[フォール1P0:35] Nyashurt Otgonmargol(モンゴル)
1回戦  ○[2−0] Cascaracova Luly(ロシア)
準決勝 ○[2−1] Oorzhak Lorisa(ロシア)
決  勝 ○[F1P0:52] Hrunova Lola(ロシア)

 【2005年ワールドカップ】=
優勝(6選手出場)

予選1回戦 ○[フォール5:50] Sara Fulp Allen(米国)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[判定、4:00] Liliya Kaskarakova(ロシア)
決    勝 ○[判定、4:00] Oleksandra Kout(ウクライナ)

 【2005年アジア選手権】=
2位(12選手出場)

1回戦  ○[フォール2P0:24] Kim You Jin(韓国)
準決勝 ○[2−0] Mustafina Bekzat(カザフスタン)
決  勝 ●[1−2] Ren Xueceng(中国)




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