【特集】世界選手権へかける(10)…男子グレコ60kg級・笹本睦
グレコローマンで期待の選手といえば、55kg級の豊田雅俊(警視庁)、60kg級の笹本睦(ALSOK綜合警備保障)、84kg級の松本慎吾(一宮運輸)の3選手が挙げられる。いずれも世界チャンピオンかそれに準ずる選手と大接戦し、その実力は世界トップ級と考えられる。その中で一歩抜き出たのが笹本だ。
8月のピトライスニスキ国際大会(ポーランド)で、五輪V2であり02・03年世界王者のアルメン・ナザリアン(ブルガリア)を撃破。乗り越えられそうで乗り越えられない“世界トップとの紙一重の差”を破ったからだ。善戦するだけと、1度でも勝つとでは、期待度という点で大きく違う。今度の世界選手権は日本レスリング界の期待を一身に受けて闘う舞台となる。
ナザリアンには、一度もグラウンド技をかけられなかった。ポイントを失ったのはアテネ五輪ででも受けてしまった必殺のがぶり返しだ(写真右)。「うまい具合に首に入ってしまう。守ろうと思った時には、もう決まっている。俵返しの体勢からがぶり返しへのもっていき方がうまい」と言う。
逆に言えば、そのがぶり返しさえ防げれば、勝つ可能性はさらに高くなる。「スタンドは勝っていた。(がぶり返し以外の)グラウンドではポイントを取られなかった。あとは細かいところを克服して、(打倒ナザリアンを)完ぺきにしたい」。内容もよかったので、次回の対戦へ向けての自信は大きい。
しかし、笹本は「国内の練習で結構投げられてしまうんですよ。何なんだ、これは、という感じなんです」と苦笑いを浮かべ、あの勝利が別世界のことであるかのように振り返る。いろんなタイプの選手が、いろんな投げ方で挑んでくるのがレスリング。ナザリアンのグラウンドを守り切って一度破ったぐらいで浮かれることはできない。
まして、現在のグレコローマンのルールは、コイントスという実力以外の要素が勝敗を左右する。「キューバ(ロベルト・モンゾン・ゴンザレス=アテネ五輪2位)には勝ったことがないし、気を抜けません」と言うのもうなずけるだろう。
目標はナザリアンではなく「優勝」だ。よく、「世界選手権では、打倒○○を目標にしていると、その選手に勝った段階で気持ちが切れてしまうから、優勝を目標にしていなければならない」と言われる。ピトライスニスキ国際大会で、ナザリアンを撃破した直後の決勝(過去に勝っているアレクセイ・シェフチョフ)をラスト5秒で逆転されて落としてしまったのは、目標を達成した満足感で気持ちが切れていた面があったからではないか?
打倒ナザリアンをひと足早く達成したことで、ナザリアンだけを目標にして臨むことはなくなったはず。その意味でも、価値あるナザリアンからの勝利だった。
1日で1回戦から決勝までをやる新ルールの追い風も感じている。決勝まで残ったピトライスニスキ国際大会では1日5試合を経験したが、世界選手権優勝するには、組み合わせにもよるが6試合を勝ちぬかねばならない。しかし「外国選手は必ずバテますよ。自分は5試合でもばてなかった。勝ち抜いていけば、チャンスは大きくなる」と言う。
グレコローマンの日程が変わり、笹本の出場する60kg級が6日目から最終日になった。日本の真打ちに“昇格”した格好で、これも“追い風”。勝利の女神が、笹本により輝く場を提供してくれたと解釈したい。この“厚意”を無にすることなく、誰よりも輝く世界選手権にしてほしい。
◎男子グレコローマン60kg級展望
※出場選手が判明した場合は差し替えます。
《ブルガリア》96年アトランタ五輪・00年シドニー五輪のほか、02・03年世界王者のアルメン・ナザリアン(写真右=本文参照)が出場してきそう。
《ロシア》アテネ五輪4位のアレクセイ・シェフチョフが、2月のワールドカップと4月の欧州選手権でそれぞれ3位。8月のピトライスニスキ国際大会では決勝で笹本を破って優勝。
《アゼルバイジャン》アテネ五輪代表のバイタリ・ラヒモフが4月の欧州選手権で優勝。7月のポッディブニー国際大会でも勝っている。
《韓国》アテネ五輪優勝のユン・イヒュンは、8月のユニバーシアードでは66kg級へ出場して2位へ。このまま1階級アップか。その場合は02年アジア大会王者で03年世界選手権代表のカン・キュンイルが出てくるか。
《イラン》アテネ五輪代表のアリ・アショカニ・アグボロアグが、5月のアジア選手権と8月のユニバーシアードで優勝し好調をキープ。
《カザフスタン》03年世界ジュニア王者でアテネ五輪代表のヌルバキット・テンギズバエフが、2月のワールドカップ2位、5月のアジア選手権3位へ。
《キューバ》アテネ五輪2位のロベルト・モンゾン・ゴンザレスが、2月のワールドカップとグランマ国際大会、4月のパンアメリカン大会で優勝。8月のユニバーシアードでは3位。
◎笹本睦の最近の主な国際大会成績
【2003年コンコードカップ】=優勝
リーグ1回戦 ○[F5:57]Glenn Nieradka(米国)
リーグ2回戦 ●[0−4]Joe Warren(米国)
リーグ3回戦 ○[3−1] James Gruenwald(米国)
リーグ4回戦 ○[不戦勝] −−−
リーグ5回戦 ○[4−3] Dilshod Aripov(ウズベキスタン)
【2003年デーブ・シュルツ国際大会】=優勝(16選手出場)
予選1回戦 ○[TF4:19=14-0] Jason Chao(米国)
予選2回戦 ○[TF2:54=10-0] Marcos Jeabtete(米国)
予選3回戦 BYE
準 決 勝 ○[4−2] Joe Warren(米国)
決 勝 ○[3−2] James Gruenwald(米国)
【2003年ピトライスニスキ国際大会】=3位(19選手出場)
予選1回戦 BYE
予選2回戦 ○[TF、10-0] Mehdi Telassi(チュニジア)
予選3回戦 ○[4−0] Nikolai Antonkin(ロシア)
準々決勝 ○[4−0] Statis Theodosides(ギリシア)
準 決 勝 ●[1−3] Ali Ashkani(イラン)
3位決定戦 ○[5−0] Kostas Gikas(ギリシア)
【2003年世界選手権】=17位(42選手出場)
予選1回戦 BYE
予選2回戦 ○[TF5:08=10-0] Alois Fassler (スイス)
予選3回戦 ●[3−4] Nurlan Koizhaiganov(カザフスタン)
【2004年五輪第2次第1ステージ】=優勝(30選手出場)
予選1回戦 BYE
予選2回戦 ○[5−0]Aliaksandr Slivinski (ベラルーシ)
予選3回戦 ○[4−0] Ali Ashkani Agboloag(イラン)
準々決勝 ○[4−3] Alexei Shevtsov (ロシア)
準 決 勝 ○[3−0] Paolo Fucile(イタリア)
決 勝 ●[負傷棄権、0:07=0-1] Aslidin Khudaiberdiev(ウズベキスタン)
※Aslidin Khudaiberdiev (ウズベキスタン)がドーピングで失格のため、笹本が優勝へ繰り上がり
【2004年ドイツグランプリ】
予選1回戦 ○[4−3] Mazaian(ロシア)
予選2回戦 ○[4−2] H. Marnette(ドイツ)
予選3回戦 ●[5−7] Dilshod Aripov(ウズベキスタン)
【2004年ハンガリーグランプリ】(24選手出場)
予選1回戦 ●[4−5] I. Majoros (ハンガリー)
予選2回戦 ○[4−2] A. Pongracz (ハンガリー)
予選3回戦 BYE
【2004年アテネ五輪】=5位(22選手出場)
予選1回戦 ○[Tフォール、2:31=11-0] Sidney Guzman(ペルー)
予選2回戦 BYE
予選3回戦 ○[9−1] Dabor Stefanek(セルビアモンテネグロ)
決勝T1回戦 ●[3−5] Armen Nazarian(ブルガリア)
5・6位決定戦 ○[4−0] Nurlan Koizhaiganov(カザフスタン)
【2005年ポーランド・オープン】=12位(35選手出場)
1回戦 BYE
2回戦 ○[フォール、1:00] Marcin Zdun(ポーランド)
3回戦 ●[0−2(0-1=2:30,0-2=2:05)] Bae Myung Hwan(韓国)
【2005年アジア選手権】= 3位(10選手出場)
予備戦 ○[2−1(2-ALast,4-2,TF8-0=0:55] Imamov Bakhodri(ウズベキスタン)
1回戦 ○[警告2P2:00(8-2=2:00,5-0)] Xie Zhen(中国)
準決勝 ●[0−2(1-3,1-4)] Ali Ashkani(イラン)
3決戦 ○[2−1(@last-1,1-@last, 2-1] Kang Kyung Il(韓国)
【ピトライスニスキ国際大会】=2位(27選手出場)
予備戦 ○[フォール2P0:57(2-1,F4-0=0:57)] Joaquin Martinez(スペイン)
1回戦 ○[2−1(3-2,0-4,2-1)] Armen Nazarian(ブルガリア)
2回戦 ○[2−0(TF6-0=2:00、TF6-0=1:08)] Jurij Kohl(ドイツ)
準決勝 ○[2−0(ACaution-2,2-0)] Suren Hervorkyan(ウクライナ)
決 勝 ●[1−2(2-0,0-3,3-4)] Alexei Shevtsov(ロシア)