【特集】世界選手権へかける(12)…男子グレコ66kg級・飯室雅規





 グレコローマンにクリンチがなくなり、俵返しの攻防が導入されて約3か月半。どの国の選手も俵返しの攻防に力を入れていると思われるが、ひと筋縄ではいなかないのが世界トップレベルのレスリングだ。男子グレコローマン66kg級で世界選手権へ挑む飯室雅規(自衛隊)は、8月のポーランド遠征での練習と試合を通じ、意外にも「ローリングの防御が必要」と感じ、帰国してからその対策に知恵を絞っている。

 俵返しの体勢からホイッスルがなると同時に組み手を変えてバックへ回り、ローリングで攻められるパターンが多かったという。「俵返しは結構切ることができたのですが、組み手をあっという間に変えられ、ローリングで回されることが多かった。練習でも、試合でも」。

 盲点だった。昨年までのグレコローマンはローリングの強さが勝敗のかなりのウエートを占めていたが、「パッシブ→パーテール・ポジション」のルールがなくなったことにより、ローリングの重要性が薄らいでいた。5月からの“新たな新ルール”でも、俵返しの攻防に目はいっても、ローリングの重要性を思い浮かべる選手は少なかったはずだ。

 だが、昨年までローリングをしっかりと強化した選手にとっては、俵返しで上げるより、組み手を切り替えてバックへ回るタイミングを覚え、ローリングで勝負する方がより勝機を見い出せる。ローリングの防御に難があると言われる日本選手は、再度この壁に挑まねばならない状況になった。

 飯室もローリングの防御は発展途上の選手だった。それだけに大変な状況に戻ってしまったわけだが、それでも以前の防御とは違う。組み手を完全に切り替えられなければいいわけで、そのタイミングをいかに体で覚えるかが世界選手権までの課題となるだろう
(写真右=防御の練習に励む飯室)

 5月のアジア選手権で何度も爆発した俵返しの攻撃力は、ポーランド遠征でもしっかりと証明された。試合では、どこまでがフライングに取られるかなどといった微妙なスタートを学ぶことができた。こうしたことは実戦を通じてこそ分かるもの。ローリングの防御の実用性を学んだこととともに、実り多い夏の遠征だった。

 世界選手権へ出場するのは今回が4度目。最初の2回戦はいずれも2戦2敗。3度目の出場となった03年の大会で、初めて1勝を挙げることができ、実力のアップは感じている。アテネ五輪出場は逃してしまったものの、「ルールも自分の有利なように変わったし、また新たな気持ちでスタートしたい」と気合は十分。

 4度目の出場というのは、笹本睦(60kg級)、松本慎吾(84kg級)とともにチームの最多出場になる。「そろそろ結果を出さないといけませんね」。アテネ五輪を逃した悔しさを晴らすとともに、チームの核となる活躍が期待される。


 ◎男子グレコ66kg級展望

※出場選手が判明した場合は差し替えます。

 
《アゼルバイジャン》アテネ五輪優勝のファリド・マンスロフ(写真左)が7月のポッディブニ国際大会に出場して優勝した。23歳という年齢からして、さらに強くなっている可能性が大きい。

 
《トルコ》63kg級時代に世界王者になったこともあるアテネ五輪2位のセレフ・エログルが現役を続行。3月のハンガリー・グランプリとポーランド・オープンで連続優勝したが、4月の欧州選手権は上位進出ならなかった。どこまでやるか。

 
《スウェーデン》02年世界王者でアテネ五輪4位のジミー・サミュエルソンが、4月の欧州選手権で5位、8月のピトライスニスキ国際大会で2位へ入っている。

 
《キューバ》2月のワールドカップ3位、グランマ国際大会優勝のアライン・ミリアンが、4月のパンアメリカン選手権で優勝。5月のドイツ・グランプリでも勝った。世界でも上位を狙えそう。

 《韓国》5月のアジア選手権優勝の
ユン・タエキュン(写真右)は、シニアでは初顔。3月のポーランド・オープンでは2位に入っていた。世界の舞台でも力を発揮できるか。

 
《その他(欧州)》4月の欧州選手権は、優勝=ニコライ・ゲルゴフ(ブルガリア)、2位=クリスチャン・フェツァー(ドイツ)、3位=モイセス・サンチェス(スペイン)セルゲイ・コバレンコ(ロシア)と、これまでにさしたる実績のない選手が並んだ。ロシアは02年世界軍隊王者のセルゲイ・クンタレフが2月のワールドカップで優勝しているが…


 ◎飯室雅規の最近の主な国際大会成績

 【2003年コンコードカップ】

1回戦 ●[2−3] Marcel Cooper(米国)
2回戦 ●[Tフォール、2:07=0-12] Kevin Bracken(米国)
3回戦 ●[2−5] Mike Ellsworth(米国)
4回戦 ●[Tフォール、2:58=0-10] Marcel Cooper(米国)
5回戦 ○[3−0] Asliddin Khudayberdiev(ウズベキスタン)

 【2003年デーブ・シュルツ杯国際大会】=
11位(22選手出場)

予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[4-0=6:19] Cory Posey(米国)
予選3回戦 ●[4−5] Bendjoudi Philippe(フランス)

 【2003年世界選手権】=
19位(46選手出場)

予選1回戦 ●[1−4] Jannis Zamandouridis (ドイツ)
予選2回戦   BYE
予選3回戦 ○[フォール、3:57=6-5] Ion Panait(ルーマニア)

 【2004年アテネ五輪第2次予選第1ステージ】=
11位(36選手出場)

予選1回戦  ○[3-0=6:26] Peter-Georg Philippitsch (オーストリア)
予選2回戦  ○[3-0=6:12] Vladimir Tatarski (セルビアモンテネグロ)
予選3回戦   BYE
決勝T1回戦 ●[0−4] Kanatbek Begaliev (キルギスタン)

 【2004年アテネ五輪第2次予選第2ステージ】=
10位(25選手出場)

予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[Tフォール、11-0] Spano Rocco Fabio(イタリア)
予選3回戦 ●[0−7] Bagaliev Kanatbek(キルギスタン)

 【2005年ポーランド・オープン】=
9位(33選手出場)

1 回 戦  BYE
2 回 戦 ○[2−0(2-0,1-0)] Kurainivn Hovhannes(オランダ) 
3 回 戦 ○[2−1(0-1,1-0=2:30,1-0=2:03)] Tudor Gaivan(モルドバ) 
準々決勝 ●[0−2(0-3,0-3=2:21)] Jimmy Samuelsson(スウェーデン)

 【2005年アジア選手権】=
2位(12選手出場)

予備戦 ○[2−0(TF5-0,3-0)] SUNIL RANR(インド)
1回戦  ○[警告3P1:30(1-2,5-0,1-0)] KIM KUM CHOL(北朝鮮)
準決勝 ○[警告2P2:00(1-@Caution,6-0=2:00)] TAVAKOLI MEHDI(イラン)
決  勝 ●[0−2(TF0-5=1:13,TF0-7=0:36)] JUNG TAE KYUN(韓国)

 【2005年ピトライスニスキ国際大会】(30選手出場)

予備戦 ○[2−0(4-2,@Last-1)] Lucjan Kwit(ポーランド)
1回戦  ●[0−2(0-3,TF0-7=1:27)] Sergey Kuntarev(ロシア)




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