【特集】世界選手権へかける(15)…女子63kg級・伊調馨






 女子63kg級の伊調馨(中京女大)には、これまで姉・千春(中京女大)のために戦った、という記憶がはない。が、今回は違う。「これまでは自分のため、2人の夢のために戦ってきました。でも今回は……、この世界選手権は、千春のために戦います」

 ともに戦ってきた2人だった。馨が初めて世界選手権に出場した02年(ギリシャ・ハルキダ)以来、03年世界選手権(米国ニューヨーク)、アテネ五輪と国際大会では常に一緒だった。が、今年6月の世界選手権代表決定プレーオフでは、千春が坂本日登美(自衛隊)に敗戦。どんな時も自分を力づけ、勇気づけてくれた存在は、今大会、代表チームにいない。

 21歳の馨は「やっぱりちょっと心細いところもある」と笑うが、世界選手権をひとりで戦うことで、姉の闘志に再び火をつけたいとも考えている。

 「アテネで金ということだけを目標にここまでやってきて、千春としても気持ちにひと段落ついた部分はあると思うんです。だから千春が自分の試合を見ることで、ちょっとでも気持ちに変化があればうれしい。これまでは自分が引っ張ってもらっていたけど、今回は私が頑張ることで千春に一歩踏み出す勇気を持ってもらいたい」

 自身のレスリング観も微妙に変化している。これまではスピードとテクニックを武器にしていたが、いまは「何よりもパワーがほしい」。8月のユニバーシアード(トルコ・イズミール)では、優勝したが決勝戦では筋力の差を痛感した。「スピードとテクニックの上に、外国人ほどじゃなくてもパワーをつけられれば、もうちょっと楽に試合ができるはず。アテネ五輪は、他国が追いつかなかったから勝てた部分もある。基礎をもっともっと練習して、地味だけど、コイツには勝てないという選手になりたい」

 テクニックに長けた選手のビデオをみながら研究にも励み、これまではほとんど見なかった男子の試合も積極的に見るようになった。彼女の心のなかで、何かが少しずつ変化してきている。

 「私たちの目標は北京で一緒に金メダルをとること。今くじけたら北京で金メダルは取れない」。彼女は力強く言った。姉の闘志に火をつけるためにも――。ハンガリー・ブタペスト。妹の勇姿を、千春は観客席で見守るという。


 ◎女子63kg級展望

※出場選手が判明した場合は差し替えます。

 《米国》アテネ五輪2位のサラ・マクマン(写真左)が代表。交通事故などのトラブルを乗り越えて代表権を獲得した。国際大会はアテネ五輪以来となるが、力をどの程度キープしているか。

 
《ポーランド》03年欧州チャンピオンのモニカ・エバ・ミチャリクが、4月の欧州選手権で2年ぶりのチャンピオンへ。

 
《ウクライナ》アテネ五輪6位のオルガ・キルコが、4月の欧州選手権2位、8月のユニバーシアード2位と力をつけた。

 
《中国》01年62kg級世界チャンピオンでアテネ五輪代表のメン・リリが、アジア選手権で3位。

 
《オーストリア》アテネ五輪出場を逃したが、世界V5のニコラ・ハートマンが6月のオーストリア・オープンで優勝、7月のカナダカップで2位。

 《ロシア》2002年59kg級世界チャンピオンのアレナ・カルタショバ
(写真右)が1月のヤリギン国際大会に優勝しているが、欧州選手権は8位と低迷。01年56kg級世界2位のリュドフ・ボロソバはヤリギン国際大会2位、2月のキエフ国際大会優勝、誰が出てくるか読めない。


 ◎伊調馨の最近の主な国際大会成績

 【2003年クリッパン国際大会】

予選1回戦  BYE
予選2回戦 ●[判定] Sara Macmann(米国)
予選3回戦 ○[F] Madelen Nilsson(スウェーデン)

 【2003年ポーランド・オープン】=
優勝

予選1回戦 ○[TF3:59=11-0] Oxana Shalikova(ウクライナ)
予選2回戦 ○[F5:48=12-3] Anna Polavneva(ロシア)
予選3回戦 ○[5-0=6:03] Malgorata Bassa(ポーランド)
準 決  勝 ○[F4:49=7-2] Lene Aanes(ノルウェー)
決     勝 ○[TF5:33=10-0] Stephanie Gross(ドイツ)

 【2003年世界女子選手権】=
優勝(27選手出場)

予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[F1:45=10-0] Agoro Papavasileiou(ギリシア)
予選3回戦 ○[4−0] Christiane Renee Legrand(フランス)
準 々 決 勝 ○[F3:35=4-0] Volha Khilko(ベラルーシ)
準 決 勝  ○[4−0] Lyudmila Golovchenko(ウクライナ)
決    勝 ○[4-3=8:20] Sara McMann(米国)

 【2003年ワールドカップ】=
優勝(10選手出場)

リーグ1回戦 ○[7−0] Yanik Viola(カナダ)
リーグ3回戦 ○[F3:44=8-2] Gross Stephanie(ドイツ)
リーグ4回戦 ○[F1:21=3-0] Su Huihua(中国)
リーグ5回戦 ○[F2:00=3-1] Polovneva Anna(ロシア)
リーグ7回戦 ○[5−0] McMann Sara(米国)

 【アジアカップ】=
優勝(4選手出場)

リーグ1回戦 ○[F2P] Huang Wenwen(中国)
リーグ2回戦 ○[F1P] Zhanna Kaikenova(カザフスタン)
リーグ3回戦 ○[不戦勝] Myagmarsuren Tumen-Ulzil(モンゴル)

 【2004年アジア選手権】=
優勝(7選手出場)

予選1回戦 ○[F0:50=8-0] Wanlapa Phuyim(タイ)
予選2回戦 ○[F3:54=10-0] Hang Jin Young(韓国)
予選3回戦 ○[TF3:53=12-0] Geetika Jakhar(インド)
決    勝 ○[F4:33=7-1] Su Huihua(中国)

 【2004年アテネ五輪】=
優勝(12選手出場)

予選1回戦 ○[TF5:10=10-0] Lyudmyia Golovchenko(ウクライナ)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[6−2] Alena Kartashova(ロシア)
準 決 勝  ○[4−0] Lise Legrand(フランス)
決    勝  ○[3−2] Sara Macmann(米国)

 【2004年ワールドカップ】=
優勝(7選手出場)

1回戦 ○[TF5:35=11-0] Helen Hennick(カナダ)
2回戦 ○[F1:21=4-0] Alaina Berube(米国)
4回戦 ○[F2:26=8-0] Anna Polovneva(ロシア)
5回戦 ○[F3:52=9-0] Jia Yafeng=賈亜峰(中国)

 【2005年ワールドカップ】=
優勝(6選手出場)

予選1回戦 ○[2−0(3-0,3-0)] LYLE Kaci(米国)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[F2P] POLOVNEVA Anna(ロシア)
決    勝 ○[F1:53] SHALIKOVA Oksana(ウクライナ)

 【2005年アジア選手権】=
優勝(8選手出場)

1回戦  ○[F1P0:50(6-0=0:50)] IKA SALATUN(インドネシア)
準決勝 ○[2−0(1-0, 3-1)] MENG LILI(中国)
決  勝 ○[2−0(3-0,4-0)] G,JAKHAR(インド)

 【2005年ユニバーシアード】=
優勝(14選手出場)

予備戦 ○[2−0(1-0,4-1)] Tara Hedican(カナダ)
1回戦  ○[2−0(6-0,6-0)] Badrakh Odonchimeg(モンゴル)
準決勝 ○[フォール2P1:03(5-0、F)] Meryiem Selloum(フランス)
決  勝 ○[2−1(0-5,1-0,3-0)] Olga Khilko(ベラルーシ)




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