【特集】世界選手権へかける(16)…男子グレコ74kg級・岩崎裕樹






 世界選手権へ初出場する男子グレコローマン74kg級の岩崎裕樹(銀水荘)はこの夏、全日本チームのメンバーとしてポーランド遠征に参加し、練習と大会出場をこなしてきた。こうした遠征は02年の世界学生選手権以来となる。

 しかし、個人としての武者修行はここ1年間のうちに2度、敢行している。昨年秋にソウルへ2週間、ことし初めに今回の闘いの舞台となるハンガリー・ブダペストに単身で約2か月。そのせいか、ポーランドで外国選手と手合わせしても、別段驚くことはなかった。「外国選手は瞬発的な力はすごかったけど、それほどダメだ、という気持ちはなかったです。気持ちでも負けませんでした」と話し、違和感や恐怖心を感じることはなかった。

 外国選手が瞬発力にたけているといっても、自らもスタミナより瞬発力がまさっていると自負している。グラウンドの攻防が導入された新ルールは「自分向けのルール」と感じ、それで日本代表を勝ち取ったという思いがある。得意だったリフトは、俵返しではなくバック投げだったが、相手を持ち上げるという基本は同じなので、対応しやすかったはず。

 遠征中に参加したピトライスニスキ国際大会は1勝1敗で上位進出はならなかったものの、初戦では3点となるリフトを決めることができた。2試合目でも完全な形ではなかったもののリフトでポイントを取ってピリオドを取っており、攻撃はまずまずだった。「でも負けてしまったし、課題は多く見つかりました」と、防御の力が必要と感じ、帰国してから強化に努めた。

 74kg級の日本代表選手は、全日本合宿ではエース松本慎吾(一宮運輸)と練習する機会が多くなる。岩崎の場合はふだんの練習場所(日体大)でも松本と手合わせすることが多い。

 日本代表に選ばれてからは、「これが世界のトップ選手の実力だ」と考え、新たな気持ちで挑むことが多くなった。毎日が全日本での練習のようなもの。「(松本は)同じ人間とは思えないくらい強い選手。でも、松本さんと互角近くにできるようになれば、74kg級では怖いものはないと思います」と、松本の背中を目標に踏ん張ってきた約3か月だった。

 ブダペストでの2か月間の単独の武者修行は、言葉が通じないこともあり、練習以外で辛いことが多く、ホームシックにもかかった。「毎日、日本へ帰りたい、と思っていました」。辛さの毎日に、東欧で最も美しいとも言われるブダペストの景色を堪能することもなかっただろうし、そこでの世界選手権に出ることなど想像もしていなかっただろう。

 あれから半年、日本代表として“がい旋”する。ここで不本意な成績を残すようなことがあれば、ドナウ川の美しさも、ブダ王宮の豪華さも、岩崎の目には永久に入ってくることはなく、辛い思いだけが残ってしまう。半年前の辛さを払しょくするためにも、力の限り闘わなければならない。勝負の時だ。


 ◎男子グレコローマン74kg級展望

※出場選手が判明した場合は差し替えます。

 《ウズベキスタン》昨年のアジア王者でアテネ五輪金メダルのアレクサンダー・ドツリシビルは、その後、活動をしていない。休養の可能性が高いが…・

 
《ロシア》シドニー五輪63kg級の金メダリストで、02年世界王者、アテネ五輪3位のバルテレス・サモウルガシェフは、2月のワールドカップで2位。欧州選手権には03年欧州・世界王者のアレクセイ・グロウシュコフが出場したが、21位と低迷。どちらが出てくるか。

 
《トルコ》アテネ五輪60kg級8位のセレフ・ツエフェンクが2階級アップし、8月のユニバーシアードで優勝した。世界選手権はどうか。

 
《その他(アジア)》アテネ五輪代表のダニアル・コバノフ(キルギスタン)が5月のアジア選手権で優勝。なりをひそめていた98年世界王者のバクチュール・バイセイトフ(カザフスタン)が、5月のアジア選手権で2位へ。

 
《その他(欧州)》欧州選手権の優勝は、モブセス・カラペチャン(アルメニア)、2位はバレン・マリノフ(ブルガリア)で、これまでさほどの実績のない選手。2月のワールドカップ優勝は、昨年欧州2位のバシリ・ラディバ(ウクライナ)。

 97年世界王者でアテネ五輪2位の
マルコ・イルハンヌクセラ(フィンランド)、アトランタ五輪とシドニー五輪76kg級の金メダリストでアテネ五輪代表のフィリベルト・アスクイ・アギレラ(キューバ)は、その後活動をしていない。年齢からして、ともに引退か?


 ◎岩崎裕樹の最近の主な国際大会成績

 【2004年ピトライスニスキ国際大会】(28選手出場)

予備戦 ○[2−1(TF6-0=1:29,2-4,2-1)] Waclaw Siorak(ポーランド)
1回戦 ●[1−2(2-1,1-@Last,0-2)] Bolat Abdulayev(ウクライナ)




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