【特集】世界選手権へかける(18)…女子55kg級・吉田沙保里






 今年春に新調したスーツが、どうにも身体にフィットしない。「なんだか腕のところがキツくなってしまって」。腕っ節を確かめるようにして、女子55kg級の吉田沙保里(ALSOK綜合警備保障)はおどけてみせた。

 その傍らで、栄和人全日本女子チーム監督(中京女大職)が「腕、だいぶ太くなったでしょ。トレーニングの成果が上がっているよなぁ」とが目を細める。圧倒的な強さでアテネ五輪の金メダルを獲得してから1年。世界選手権に向けた吉田沙保里のモデルチェンジは着々と進んでいる。

 研究されていると痛感したのは今年に入ってからだった。吉田は「相手の構えも低くなっているし、研究されているのは感じます」と言う。5月のワールドカップ(フランス・クレルモンフェラン)では、ティナ・ジョージ(米国=02・03年世界2位)にタックル返しを受けて第1ピリオドを先取された。しかし、新ルールに慣れるためにはいい経験だったと振り返る。

 「この新ルールでは、1ピリオド目を取られないようにするのが大切になってくる。(ワールドカップでは)1ピリオド目を取られたことに動揺して、その気持ちを引きずったまま2ピリオド目に入ってしまった。世界選手権では、もし1ピリオド目を取られたとしても、気持ちを切り替えて臨みたい。一番いいのは、早い時間に1点を取ることです」

 組み手の強化に務める筋力トレーニングに精を出し、あえて得意のタックルを封じてスパーリングに臨んだ。成果は現れている。かつては55kgを下回ることが多かった体重も、今ではナチュラルな状態で57kgをキープできている。

 「外国へ行くと少し体重が落ちるからちょうどいい。これも筋肉がついたのかなってことかなと思っています」

 前述のティナ・ジョージ、カナダのトンヤ・バービック、ロシアのナタリア・ゴルツ…。ライバルは「打倒ヨシダ」を合言葉にハンガリーに乗り込んでくる。

 「強豪がそろってつぶし合いになると思う。気がゆるんだら何が起こるかわからない。今回の世界選手権は、これまでで一番厳しい戦いになる」と言うが、無敗記録を延ばす自信は十分にある。「外国人選手より自分の方が練習しているという自信がある。絶対に負けたくないし、最後に勝つのは自分。そう信じて戦いたい」−。


 ◎女子55kg級展望

 《ロシア》03年世界チャンピオンでアテネ五輪は国内での所属をめぐるトラブルで出場できなかったナタリア・ゴルツ(写真左)が、1月のヤリギン国際大会、2月のキエフ国際大会、4月の欧州選手権でそれぞれ優勝。5月のワールドカップは2位だったが、8月のワルシャワカップで優勝と好調。

 《フランス》アテネ五輪3位のアンナ・ゴミスが、4月の欧州選手権2位、5月のワールドカップ3位とコンスタントにいい成績を残している。

 《カナダ》アテネ五輪銀メダルのトンヤ・バービックが、7月のカナダカップで優勝し、ユニバーシアードでも2位に入った。

 《米国》02・03年世界2位のティナ・ジョージ(が代表へ復帰。2月のデーブ・シュルツ国際大会、3月のクリッパンン国際大会とミロン・トロフィー大会優勝、5月のワールドカップは5位と低迷したが、まだ力は残っているだろう。

 
《中国》04年にアジア選手権とワールドカップの59kg級で優勝したス・リフイが1階級ダウン。5月のアジア選手権は吉田沙保里に敗れたが、今回は?

 
《ノルウェー》世界V3のグドルン・ホイエが現役続行。6月のオーストリア・オープンは59kg級で優勝、8月のワルシャワカップは55kg級で3位。どちらの階級に出てくるか?


 ◎吉田沙保里の最近の主な国際大会成績

 【2003年世界女子選手権】=
優勝(29選手出場)

予選1回戦  BYE
予選2回戦  ○[Tフォール、4:16=10-0] Olga Serbina(ベラルーシ)
予選3回戦  ○[フォール、0:38=3-0] Kitti Godo(ハンガリー)
決勝T1回戦 ○[フォール、0:20=4-0] Monika Michalik(ポーランド)
準 々 決 勝 ○[Tフォール、2:51=10-0] Jennifer Ryz(カナダ)
準  決 勝  ○[3−2] Natalia Golts(ロシア)
決    勝  ○[5−2] Tina George(米国)

 【2003年ワールドカップ】=
優勝(9選手出場)

リーグ1回戦 ○[フォール、1:03=3-0] Verbeek Tonya(カナダ)
リーグ2回戦  BYE
リーグ3回戦 ○[Tフォール、2:15=10-0)] Lotz Sabrina(ドイツ)
リーグ4回戦 ○[フォール、1:24=8-0] Gao Yanxhi(中国)
リーグ5回戦 ○[6−1] Golts Natalia(ロシア)
リーグ6回戦 ○[フォール、0:24=4-0] Skoulida Christina(ギリシャ)
リーグ7回戦 ○[フォール、5:59=9-2] George Tina(米国)

 【2004年アジア選手権】=
優勝(8選手出場)

予選1回戦 ○[フォール、0:42=6-0] Lin Chia-Hua(台湾)
予選2回戦 ○[フォール、0:45=4-0] Otgonjargal Naidan(モンゴル)
予選3回戦 ○[フォール、0:40=5-0] Qiu Hongmei(中国)
決    勝 ○[8−1] Lee Na Lae(韓国)

 【2004年アテネ五輪】=
優勝(12選手出場)

予選1回戦  BYE
予選2回戦 ○[Tフォール、3:47=11-0] Su Dong Mei(中国)
予選3回戦 ○[Tフォール、6:00=10-0] Diletta Giampiccolo(イタリア)
準 決 勝 ○[7−6] Anna Gomis(フランス)
決    勝 ○[6−0] Tonya Verbeek(カナダ)

 【2004年ワールドカップ】=
優勝(6選手出場)

リーグ1回戦 ○[Tフォール、2:58=10-0] Laura McDougall(カナダ)
リーグ2回戦 ○[12−5] Teka O'donnell(米国)
リーグ3回戦 ○[フォール、0:38=7-0] Sunita Sharma(インド)
リーグ4回戦 ○[Tフォール、1:48=13-1] Nataria Karamchakova(ロシア)
リーグ5回戦 ○[フォール、4:55=12-3] Sun Dongmei=孫東梅(中国)

 【2005年ワールドカップ】=
優勝(6選手出場)

予選1回戦 ○[フォール、1P(1-4,6-3,6-0)] Tina George(米国)
予選2回戦  BYE
予選3回戦 ○[2−0(3-1,7-0)] Natalia Golts(ロシア)
決    勝 ○[判定、4:00] Alena Komarova(ウクライナ)

 【2005年アジア選手権】=
優勝(9選手出場)

1回戦  ○[フォール、1P1:12(8-0=1:12)] Lin Yi Chun(台湾)
準決勝 ○[2−0(1-0,1-0)] Lee Na Lae(韓国)
決  勝 ○[フォール、2P0:56(1-0,4-0=0:56)] Su Lihui(中国)

 【2005年ユニバーシアード】=
優勝(10選手出場)

1回戦  ○[フォール、1P1:01] Ramona Scherer(ドイツ)
準決勝 ○[フォール、2P0:30(4-0,F)] Olha Levkovska(ウクライナ)
決  勝 ○[2−0(1-0,2-0)] Tonya Verbeek(カナダ)




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