【特集】世界選手権へかける(18)…女子67kg級・坂本襟






 初出場となる世界選手権。不安、緊張……、さまざまな思いが交錯するなか、女子67kg級の坂本襟(ワァークスジャパン)にはひとつ、これだけは絶対に貫こうと心に決めたことがある。

 「……何があっても、自分がやってきたことを信じて戦おう」

 これまでは迷いや不安を背負ったままマットに上がることがあった。迷いはファイトに現れる。昨年12月の全日本選手権では斉藤紀江(ジャパンビバレッジ)に敗北した。

 あとがない状況に追い込まれたことが、彼女の心に火をつけた。所属していた会社を退職。少しでも練習の時間が取れるようにとアルバイトをしながら大学での練習に臨んだ。寮を離れて部屋を借り、ひとり暮らしを始めたのもこの頃だ。「これまでの自分は甘えていた」と坂本は当時を振り返る。

 「やることが増えてつらいことも多かったけど、まわりに応援されて、励まされて……。自分のなかに『まだここで終わりたくない』という気持ちが強くなってきたんです」

 3月のジャパンクイーンズカップで斉藤に雪辱すると、5月のワールドカップ(フランス・クレルモンフェラン)では強豪ロシアを撃破。続いてあったアジア選手権(中国・武漢)でも銀メダルを獲得し、6月の世界選手権代表決定プレーオフでは、勢いそのままに斉藤に勝利。世界選手権の切符を手に入れた。

 「厳しい中でも前に進んでこられたことで、自信がつきました。どんなことがあっても前に進む気持ちが出てきた。そういう気持ちはレスリングにも出る。ああ、接戦の厳しい試合で勝つために必要だったのは、こういう気持ちだったんだなぁと思いました」

 全日本の栄和人監督(中京女大職)は「新ルールでは、初めに1ポイントでも取って逃げ切るタイプと、あとで追い上げるタイプと2つに分かれる。吉田沙保里、伊調馨は前者のタイプだけど、坂本にはあとから逆転していく力がある」と話している。試合終了間際に逆転されることが多かった彼女にとって、これは最大限の評価だ。

 「初めての世界選手権でどこまでできるかわからないけど、メダルを持って帰ってきたい。そうしたら、自分がこれまでやってきたことが正しいと思える」

 坂本はそう宣言する。「自信」という名の武器を手に入れた彼女の思いは、ブダペストで開花する。


 ◎女子67kg級展望

 《ウクライナ》02年世界チャンピオンのカテリナ・ブルミストロバ(写真左)が、昨年に続いて欧州チャンピオンへ。5月のワールドカップでも3位に入った。

 
《ロシア》04年ワールドカップ優勝のエレナ・ペレペルキナが、1月のヤリギン国際大会優勝、5月の欧州選手権で2位へ。

 
《米国》03年世界チャンピオンで5月のワールドカップ優勝のクリスティ・マラノは不出場。01年ワールドカップ優勝、04年同5位のキャサリン・ドーイングが代表。ことしは2月のデーブ・シュルツ国際大会と2月のショーブ国際大会で優勝など。

 
《フランス》元世界チャンピオンでアテネ五輪63kg級3位のリセ・ゴリオットが現役を続行。4月の欧州選手権3位、5月のワールドカップ2位。まだ実力はありそう。

 《中国》04年ワールドカップ3位のジン・ルイシュ
(写真右)が、5月のアジア選手権優勝。


 ◎坂本襟の最近の主な国際大会成績

 【2003年ワールドカップ】=
8位(9選手出場)

リーグ6回戦 ○[F0:37=3-0] Dadouti Irini(ギリシャ)

 【2004年プレ五輪】=
9位(17選手出場)

予選1回戦 ○[フォール、4:00=11-0] Nadia Valkova(ブルガリア)
予選2回戦 ●[フォール、4:10=0-5] Ewelina Pruszko(ポーランド)
予選3回戦 ●[Tフォール、2:20=3-13] Sara McMann(米国)

 【2004年ワールドカップ】=
5位(7選手出場)

リーグ1回戦 ●[3−4] Christine Nordhagen(カナダ)
リーグ3回戦 ○[F0:40=3-0] Manju Shekhawar(インド)
リーグ4回戦 ●[0−5] Elena Perepelkia(ロシア)
リーグ5回戦 ●[1−7] Jing Ruixue(中国)

 【2005年ワールドカップ】=
5位(8選手出場)

予選1回戦 ●[0−2(0-1,0-1)] Marano Kristie(米国)
予選2回戦
予選3回戦 ○[2−1(1-@,5-1,1-0)] Dezhneva Anastasia(ロシア)
決    勝 ●[判定] Burmistrova Katerina(ウクライナ)

 【2005年アジア選手権】=
2位(8選手出場)

1回戦  ○[フォール、1P1:46(3-0)] Cheng Po Chi(台湾)
準決勝 ○[フォール、2P1:46(2-Alast,4-0)] Myagmarsuren Ochirbat(モンゴル)
決  勝 ●[0−2(0-1,0-2)] Jing Rui Xue(中国)




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