【特集】五輪王者に臆することなく挑んだ…男子フリー60kg級・湯元健一





 日本代表として戦ったのは、カデットとジュニアそれぞれ1度だけ。シニアの世界選手権などまだまだ先のことと思っていたが、男子フリースタイル60kg級の湯元健一(日体大)は、20歳でその夢をつかんだ。

 世界中から強豪が集う初の大舞台。しかも、初戦の相手はアテネ五輪金メダリスト、ヤンドロ・キンタナ(キューバ)。それでも、湯元は少しも臆することなく戦った。

 「“いきなりかよ”と思いましたが、何だか、当たるような予感はしていたんですよね。そうしたら本当にそうなって。“よし、やってやろう”と気合が入りました」

結果は、1ポイントも奪えず0−2の判定負け。だが、力の差は感じなかったという。「オリンピック・チャンピオンですからね。正直、最初は緊張したし、守りに入ってしまったところはありますが、“こんなもんか”と思いました」

 最強の男と、その年の世界チャンピオンを決める最高の大会で戦えたことは、湯元にとってこの上なく大きな財産となったはずだ。世界のトップレベルを身をもって感じることができた経験は、将来の日本レスリングを背負って立つ若者を必ずや強くするに違いない。

 その兆しは、敗者復活1回戦早くも現れた。03年世界選手権6位、04年欧州チャンピオンのテフフィック・オダバシ(トルコ)を相手に積極的に攻め続け、初戦敗退のうっ憤を晴らすかのように何度も鮮やかに正面タックルを決めて2−0の判定で打ち負かした
(写真上)

 「自分が1回戦で敗退したトルコの国際大会(ヤシャドク国際大会=今年2月)で優勝した選手に勝てたことは、自信になりました。敗者復活2回戦では、場外に押し出されてポイントを失うなどして負けてしまい、もっとパワーをつけなければいけないと痛感しています。課題がハッキリと分かり、とても有意義な大会でした。今回学んだことを生かし、もっともっと練習して、金メダリストだろうが、世界チャンピオンだろうが、次は絶対に勝ちます」

 試合後、大粒の汗を流しながら悔しそうな顔を見せ、湯元はそう言い切った。
                       
(取材・文=宮崎俊哉)


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