【特集】悔いのない第1ピリオド終盤の仕掛け…男子フリー84kg級・山本悟





 世界選手権初出場の男子フリースタイル84kg級の山本悟(岡山・烏城高教)は、初戦で04年アジア王者のフェリドン・ガンバリピサール(イラン)に敗れ、敗者復活戦に回ることなく闘いを終えた。

 第1ピリオド、0−0で進み、ラスト15秒、コイントス勝負かと思われたあとに仕掛け、うまくかわされて痛恨の1点を失った。無駄な攻撃という見方もあるだろうが、山本は「前夜、和田コーチから、『コイントス勝負は審判に勝敗をゆだねることになる』と言われた。世界選手権に来た以上、自分の力で1点を取るべきだと思った」として仕掛けたと説明。「コイントスへ持ち込んで勝ったとしても、気持ちは晴れなかったと思う」と、勝負へいった選択に悔いはないと言い切る。

 1点も取れなかった事実に、「得意のタックルでポイントを取れなかったのは残念。もっと練習を積まなければならないですね」と言うものの、フェイントや崩しは効いていたという実感がある。何もしないまま終わったわけではない。

 「2分間の闘いになり、前のルールほど相手との差は感じなくなったけど、その分、1点の重さが大きくなった。簡単にポイントを取らせてくれないし、自分が簡単に1点をやってしまっては絶対に勝てないことを知った」。次に生かせる経験を積んだことは間違いないだろう。

 定時制高校の教員をやっている。この大会の後は文化祭が予定されており、生徒は劇を上演することになっている。「自分は世界選手権で頑張ってくる。みんなも、いい劇ができるように頑張れ」と伝えて日本を後にした。結果は出なかったものの、大舞台で逃げることなく勝負したことは生徒に誇れること。

 「みんな楽な方へ行こうとする傾向がある。何かひとつでいいから、遊ぶ時間をけずってでも、必死に打ち込めて頑張れるものをつくってほしい」という思いを、自らの行動で実践できたわけで、これからも胸を張って指導できそう。もちろん、いい結果を出すことが、生徒への何よりも刺激になるだろう。その思いを、来年こそは実現してほしい。

(取材・文=樋口郁夫)


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