【特集】大橋正教の目「浜口なればこその試練。耐え抜いてほしい」…世界選手権第5日






 前日まで4階級を制覇した日本女子の総決算として、浜口京子選手が決勝のマットに上がりましたが、初出場のアイリス・スミス(米国)に屈しました。準決勝までは非常にいい試合でした。常に前に出ながら相手の横についていく展開をつくりました。

 昔はパワー一本やりの力でねじ伏せるレスリングで、前後の動きしかありませんでした。今は横への動きも鋭く、このままだったら優勝できると思っていましたが、決勝戦だけは、なぜか最初から動きが違っていました。

 プレッシャーがそうさせたのかどうかは分かりませんが、圧力をかけて前で出ていくとうパターンが全くなかったですね。マットに上がった時から本来の浜口でなかったのか、自滅で先にポイントを取られたことで歯車が狂ったのかは分かりませんが、決勝だけは別人の浜口が闘っていました。

 でも2位入賞で、アテネ五輪の3位より順位は上げました。メダル獲得に対して「おめでとうございます」と伝えたいと思います。優勝できなくとも、これからも日本女子レスリングの顔として、世間からは一番の注目を受けると思います。

 そのプレッシャーはすごいと思いますが、「神様は、大きな役目のある人間であればあるほど、より大きな試練を与える」と言われます。プレッシャーの強さは私たちの想像以上だと思いますが、浜口なればこそ与えられた試練です。その試練を耐え抜き、北京オリンピックで勝利の女神が微笑んでくれることを期待したいと思います。

 67kg級の坂本襟は、カナダ戦でも1、2ピリオドで片足タックルを決めるなど、練習の成果は出ていたいと思います。しかしグラウンドの防御ができず逆転負け。リードして、試合時間がまだ多く残っているにもかかわらず、それ以上の攻撃を仕掛けなかったという面が見受けられました。

 優しい子なのでしょう。相手を何が何でもたたきつぶすという闘争心が見られませんでした。レスリングは格闘技。マットの上では別人になって闘争心をむき出し、けんか腰で相手に向かっていってほしいと思います。本人もそのあたりを課題と考えていることと思います。

 男子グレコローマン55kg級の豊田雅俊は元世界王者のキューバに負けてしまいましたが、豪快な俵返しを決めることができました。失点の多さが負けにつながりました。豊田に限りませんが、グラウンドでの攻撃の場合、レフェリーのホイッスルとドンピシャでスタートできたら、九分九厘、リフトを成功することができます。それだけにデフェンスの力が、勝つために必要になってきます。この課題を克服できれば、もう一段、上へいけるでしょう。

 決勝はイラン−韓国で、20歳のイラン選手が優勝しました。アジアででも大きな目標ができたわけで、身近な選手を目標に頑張ってほしいと思います。

 大橋正教 1964年12月7日、岐阜県生まれ。岐阜一高から山梨学院大へ。大学時代、のちにソウル五輪に輝く小林孝至選手に土をつけた唯一の選手。89年のアジア選手権グレコローマン48kg級2位のあと、92年アジア選手権で優勝。同年のバルセロナ五輪代表へ。現在はALSOK綜合警備保障監督。



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