【特集】大橋正教の目「松本にほしい横崩しの力」…世界選手権第6日






 日本のエース、84kg級の松本選手が準々決勝で敗れました。負けた相手のウクライナ選手が準決勝でロシア選手と大接戦。そのロシア選手が決勝でベラルーシ選手と大接戦。この階級は10人くらいが先頭集団を走っていて、鼻の差を争っているような状況です。8位に終わった松本ですが、次に戦えば3位、あるいは1位ということも決して難しい状況ではないでしょう。

闘った3試合はいずれも3ピリオドまでもつれ激戦続きでした。体力的にきつかったと思いますが、グラウンドのディフェンスはしっかり研究しているな、と思われる場面が多くありました。

 強豪続きだったので簡単にポイントは取れませんでしたが、3回戦のウクライナ戦では豪快な5点リフト技を決めることができ、非凡な才能をあらためて感じました。欲を言えば、横崩しを決める力があれば、もっと楽にポイントへつなげられると思います。俵返しの組み手を切られながらもバックへ回り、また俵返しの組み手にトライしたという場面がありましたが、30秒間では、ちょっと無駄なことのように感じました。バックへ回った段階でローリングへいくべきケースだと思います。

 横崩しの技術があれば、攻撃の幅が広がるはずです。「そんなことは分かっている」と言われそうですが、松本の能力なればこそ、ぜひとも横崩しを強豪相手に決められるようになってもらいたいと思いました。

 66kg級の飯室選手は、1回戦を勝ったあと、2回戦の中国戦も俵返しで3点を取るなどいい調子をつくりました。手足の長い選手で、俵返し向きの体型をした選手で、世界の舞台でそのことが証明されました。

 しかし最後にクロス・ボディ・ロックをしっかりとらないと警告をとられ、不本意な形で負けてしましました。本人にも言い分はあると思いますが、私はあの判定の前に、パーテール・ポジションをとっている相手の体勢がおかしいとレフェリーにアピールしたことが逆効果になったのではないかと思っています。

 日本選手の中には、レフェリーに対して「相手のこの体勢はおかしい」とアピールする選手が少なくありません。しかしレフェリーからすれば、選手から指示されるようで、面白いはずはありません。レフェリーも人間ですから、「おまえには不利な判定をしてやる」という気持ちになっても不思議ではないでしょう。

 クロス・ボディ・ロックをいい体勢からスタートしたいという気持ちは分かります。しかし、それにこだわりすぎて失敗したのが今回の飯室選手でした。まして、2度の警告を受けていた試合。もう1度警告を受けたら失格になる状況です。たとえホイッスル直後の速攻に失敗して30秒間でポイントを挙げられなかったとしても、後半の30秒を守り切れば、1−1のラストポイントで勝利を手にすることができました。

 飯室選手の防御力ならそれができたはずです。「3度目の警告をとられてはいけない」という気持ちに徹するべきでした。何とも歯がゆい試合でした。世界選手権4度目の出場を果たし、チームを引っ張るべき存在の選手。次回からは、堂々とした正攻法での攻撃を期待したいとおもいます。

 74kg級の岩崎裕選手は1回戦のフランス戦、第1ピリオドのスタンド戦から積極的に攻撃をしかけ、手どりで横へつきながら場外へ押し出しました。スタンドでは相手を動かしてスタミナを奪うだけというケースが見受けられる中、スターとからポイントを狙って行く姿勢には好感がもてました。

 第2ピリオドには俵返しでポイントを取っています。最後の最後に脚を使ったと判断されて負けてしまいましたが、勝利を目指した積極的な姿勢を高く評価したいと思います。間違いなく次につながる内容でした。

 大橋正教 1964年12月7日、岐阜県生まれ。岐阜一高から山梨学院大へ。大学時代、のちにソウル五輪に輝く小林孝至選手に土をつけた唯一の選手。89年のアジア選手権グレコローマン48kg級2位のあと、92年アジア選手権で優勝。同年のバルセロナ五輪代表へ。現在はALSOK綜合警備保障監督。



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